「その試食、3皿ともいったん下げて」店長の突然の指示。だが、売り場に来た男性の正体に絶句
店長が急に通路を見た
デパートの地下にあるパン屋で働き始めて、まだ間もない頃のことです。
その日は新商品の販売初日で、カウンターの端に試食を用意していました。一口大に切ったパンを3皿に分け、来店したお客様へ案内していました。
「こちら、新商品のパンです。よかったらどうぞ」
何人かのお客様が足を止め、試食を手に取っていきます。
私は空いた皿へパンを補充しようとしていました。
そのとき、店長が急に通路のほうを見ました。
さっきまで普通に接客していたのに、表情が少しだけ変わったのです。
「その試食、3皿ともいったん下げて」
「全部ですか?」
「うん。裏にお願い」
理由は分かりませんでしたが、私は言われた通り皿をまとめてバックヤードへ運びました。
男性がまっすぐ売り場へ来た
戻ってくると、60代くらいの男性が売り場の前に立っていました。
男性は試食を置いていたカウンターを見てから、店長に声をかけました。
「さっきまで何か出してたよね。試食は?」
店長は落ち着いた声で答えました。
「申し訳ありませんが、お客様には以前もお伝えした通り、こちらの売り場のご利用をご遠慮いただいております」
私はそこで初めて事情を知りました。
その男性は以前、試食を一度に何個も持っていったうえ、店員が数を控えるようお願いすると、「試食なんだから好きに食べていいだろう」と言い争いになったことがあったそうです。
さらに別の日にも同じようなことがあり、施設側から本人へ、今後はこの売り場を利用しないよう伝えていたとのことでした。
男性は少し不満そうな顔をしました。
「今日は何もしてないだろ」
店長は言い返さず、「担当の者を呼んでおりますので、こちらでお待ちください」とだけ答えました。
試食を下げた理由
ほどなくして警備員がやってきました。
男性はしばらく何か話していましたが、最後は警備員と一緒に売り場を離れていきました。
姿が見えなくなってから、私は店長に聞きました。
「どうして最初に試食を下げたんですか?」
「前に、話している途中で試食に手を伸ばされたことがあったの。だから今日は、まず触れない状態にしてから警備に連絡したのよ」
男性の姿を見つけた時点で、店長はすでに警備へ連絡していたそうです。
試食を隠して追い返そうとしたのではなく、店員と男性がその場で押し問答になるのを避けるための対応でした。
「こちらが慌てると、周りのお客様まで不安になるからね」
そう言って、店長はいつもの調子で試食皿をカウンターへ戻しました。
働き始めたばかりの私は、接客とは笑顔で商品を勧めることだと思っていました。
けれど、ときには何かが起きる前に売り場を落ち着かせることも、店を守る仕事なのだと知った出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














