「ここでそんな話していいの?」電車で楽しそうに話すグループ。だが、会社名まで響いていた会話に感じた本音とは
声だけが、車内の静けさから浮いていた
その日の帰りの電車で、私は向かいの席から聞こえてくる会話が気になっていた。
並んで座っていたのは、数人の男性たち。食事か飲み会の帰りらしく、頬が少し赤く、楽しそうに笑っていた。悪い印象はなかった。ただ、声の大きさだけが、静かな車内では目立っていた。
「あの件、まだ止まったままなんだよ」
「そろそろ出さないとまずいだろ」
話しているのは、ほとんど仕事のことだった。
誰が何を担当しているのか、どこで話が止まっているのか。愚痴や社内の事情、仕事相手についての話まで、次々と聞こえてくる。
私は本を開いていたものの、なかなか内容が頭に入らなかった。
聞こうとしているわけではない。それでも、声が大きいため自然と耳に届いてしまう。
「あの人の言い方、さすがにきついよな」
「まあ、上があの調子だからしょうがないよ」
ふと周囲を見ると、ほかの乗客も何人か同じ方向を気にしていた。窓の外へ視線を向けたり、スマートフォンを見たりしているものの、会話が聞こえていることは何となく分かった。
会社名まで聞こえてきた
しばらくすると、会話の中に会社名まで出てきた。続けて、取引先らしい名前も聞こえてくる。
私は思わず本から顔を上げた。
(ここでそんな話していいの?)
男性たちは、自分たちの声がどこまで届いているのか気づいていないようだった。
周囲を気にしていないというより、話が盛り上がるうちに声が大きくなっていたのだと思う。
そのなかに、一人だけあまり話していない男性がいた。
その人がふと顔を上げ、車内を見回した。近くに立っていた乗客と目が合い、さらに周囲へ視線を向ける。
そして、隣に座る仲間へ少し身を寄せた。
「電車の中ですよ、聞こえてます」
責めるような言い方ではなかった。声も小さく、仲間にだけ伝えるような調子だった。
それでも、それまで笑っていた人たちは一瞬黙った。
「……ああ、悪い」
誰かがそう答えると、それまで続いていた仕事の話はそこで止まった。
静けさが戻った車内で
その後、男性たちは声を落とし、ほどなくして駅で降りていった。言い争いになることもなく、気まずい空気が長く残ることもなかった。
おそらく最初から、周囲に聞かせようとしていたわけではない。ただ、楽しく話しているうちに、自分たちの声の大きさに気づかなくなっていたのだろう。
周りに人がいる場所では、何を話しているかだけでなく、どこまで聞こえているかも気にする必要がある。
仲間の一人がそれに気づき、短く声をかけただけで、車内はまたいつもの静けさに戻った。
私はようやく、本の続きを読み始めることができた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














