「先輩は定時で帰れて楽そうですよね?」と私の席にかがみこむ後輩。隣に座らせて机を見せると、後輩が言葉を失った
席に来た後輩の気軽な一言
後輩は私の席にかがみこみ、気軽な調子で楽そうだと言いました
部署をまとめる立場の私は、その日も自分の席でパソコンに向かい、部下から上がってきた書類を一枚ずつ確認していました。
そこへ、入社二年目の後輩が資料を持ってきました。
後輩は私の机の横から身をかがめ、気軽な調子で言いました。
「先輩は定時で帰れて楽そうですよね?」
そのときの私は、席に座って書類を確認しているところでした。
後輩の目には、それだけで済む楽な仕事に映ったのかもしれません。
私は手を止め、言い返せないまま後輩を見上げました
私の仕事には、社員の育成やお金の管理、生産の段取り、会議の準備など、周囲からは見えにくい業務も数多くあります。
定時に帰れるのは、期限の近い仕事から順番に片づけているからです。
部下からの相談にも、毎日対応しています。
私は手を止め、後輩を見上げました。言葉だけで仕事の量を説明しても、なかなか伝わらないと思いました。
「……そう見える?」
後輩は悪気のない顔で、小さくうなずきました。
後輩を隣に座らせた私
私は後輩を隣に座らせ、予定表と記録を机いっぱいに広げました
私は椅子を横へ引き、隣の席を指して『ちょっと座って』と声をかけました。
後輩は不思議そうに腰を下ろしました。
怒るよりも、実際に仕事の中身を見てもらおうと思ったのです。
まず、その日の予定表を机に広げました。
朝から夕方まで、会議や面談の予定が並んでいます。
続けて、厚い記録の束や、新しく入った社員への指導内容をまとめた冊子を何冊か置き、一つずつめくって見せました。
机の面が見えなくなるほど、紙でいっぱいです。
どれも数日のうちに片づけなければならない仕事に関するものでした。
「今の仕事は、これで全部だよ。」
後輩の笑顔は消え、机の上の資料をじっと見つめていました。
一年後、後輩は自分から私の席に来て、詫びてくれました
後輩は小さな声で『……勉強になりました』と言って、自分の席へ戻りました。
それから一年がたちました。
後輩は自分も新人を受け持つようになり、見えない仕事の多さに戸惑う日が続いているようでした。
私の席に来るときも、以前より丁寧に挨拶をするようになっていました。
ある朝、後輩が私の席の前に来て、背筋を伸ばして立ちました。
「楽そうと言って、すみませんでした。」
後輩は小さく頭を下げ、しばらく顔を上げませんでした。
あの日の机の上の書類を、今もよく思い出すのだそうです。
自分が担当を持って初めて、私が毎日何を抱えていたのかが分かったと言います。
私はうなずくだけにしました。あの日、怒らずに仕事の中身を見せておいて、本当によかったと思います。
笑って流していたら、後輩は今も同じ思い込みのままだったかもしれません。胸の奥がすっと軽くなりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














