「財布が見つかったらすぐ返すから」と言われ母に貸した1万円。半年後、私が台所で紙に書いた日付とは
3度くり返された「来月」
母に1万円を貸したのは半年前のことです。
その夜、実家に寄ると、これから近所のスーパーへ買い物に行くという母が、居間でかばんの中を何度も探していました。
「あれ…財布がない。どこに置いたんだろ」
しばらく探しても見つからず、母は困った顔で私を見ました。
「悪いんだけど、今日の買い物代、1万円だけ貸してくれない?財布が見つかったらすぐ返すから」
「いいよ。でも、見つかったら返してよ」
「もちろん。助かった」
財布は翌日、こたつ布団の下から見つかりました。母からも「あったよ。こんなところに入ってた」と笑いながら電話がありました。
ところが、1万円については何も言いません。
貸してからひと月ほどたったころ、私はそれとなく聞きました。
「そういえば、あの1万円って返せそう?」
母は少し黙ってから答えました。
「ああ…ごめん。今月ちょっと厳しくて。来月絶対に返すから」
「分かった。じゃあ来月ね」
しかし、貸してから2か月たっても返ってきませんでした。
「母さん、1万円のこと覚えてる?」
「覚えてるよ。ほんとごめん。来月絶対に返すから」
さらに4か月ほどたったころ、もう一度聞いても答えは同じでした。
「ごめんね。来月絶対に返すから」
これで3度目です。
1万円という金額以上に、毎回「来月」と言われ、その来月がいつまでも来ないことのほうが、私はだんだん気になっていました。
台所で決めた返済日
半年ほどたった次の休みの日、私は実家へ行きました。
母は台所でねぎを刻んでいました。私はテーブルにメモ用紙を置き、「1万円・来月15日まで」と書きました。
母が包丁を置いて振り返ります。
「…何、それ」
「この前のお金。俺も何回も聞くの、もう嫌なんだよ」
母は少し気まずそうな顔をしました。
「ごめん。忘れてるわけじゃないんだけど……」
「うん、それは分かってる。でも『来月』だけだと、また同じになるだろ。15日って決めよう。それまでは俺から何も言わないから」
母は黙ってメモを見たあと、小さくうなずきました。
「……分かった。15日ね。今度はちゃんと返す」
そして紙を持って立ち上がると、冷蔵庫にみかんの形のマグネットで貼りました。
「ここなら毎日見るから」
「じゃあ、それでいいよ」
それから私は、本当に一度も催促しませんでした。
翌月15日の夜、自宅のチャイムが鳴りました。ドアを開けると、母が封筒を手に立っていました。
「はい。約束の分」
中を見ると、1万円札が入っています。
「遅くなってごめんね」
母はそう言って、冷蔵庫に貼っていたメモも見せました。
「やっぱり『来月』じゃだめね。日にちまで決めないと」
「俺もそのほうがいいと思う」
それからしばらくして、母から別の支払いを少し立て替えてほしいと頼まれたことがありました。
そのときは、私が何か言うより先に、母がボールペンを手に取りました。
「今度は最初に返す日、決めとこう」
あの日、台所で日にちまで決めたことは無駄ではなかったのだと思いました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














