「あの、10円玉はあるんですけど」お好み焼き屋で女性客の言葉を聞き間違えた私。思わぬ勘違いに赤面
注文の聞き取りには自信があった夜
学生のころ、私はお好み焼き屋でアルバイトをしていました。
夜はカウンターの内側で鉄板に向かい、へらを動かしながらお客さんの注文を聞くのが仕事でした。
店内がにぎやかでも、注文を聞き間違えた覚えはありません。
聞き取りには、ちょっとした自信があったのです。
ある寒い夜、カウンターに大学生くらいの女性客が2人座っていました。
お好み焼きを食べ終えた2人は、小銭入れをのぞき込みながら、何やらひそひそと話しています。
テーブル席からはにぎやかな話し声が聞こえ、鉄板ではソースがジュウジュウと音を立てていました。
すると、女性の1人が少し遠慮がちに声をかけてきました。
「あの、10円玉はあるんですけど…」
「はい?」
「おでんって、ありますか?」
少なくとも、そのときの私には、そう聞こえました。
寒い夜でしたし、お好み焼きのあとに温かいものが食べたくなったのだろうと、私は勝手に納得してしまったのです。
10円玉の話は少し気になりましたが、まさか自分が聞き間違えているとは思いもしませんでした。
笑いをこらえた女性客が言い直した言葉
私はへらを止め、申し訳ない気持ちで答えました。
「すみません、うちは鍋もおでんもやってないんすよ」
すると、2人は一瞬きょとんとした顔になり、お互いを見合わせました。
次の瞬間、そろって口元を押さえ、クスクスと笑い始めたのです。
「えっ、あれ?何か変なこと言いました?」
何がおかしいのか分からず、私はへらを持ったまま立ち尽くしていました。
すると、小銭入れを持っていた女性が、笑いをこらえながら言い直しました。
「いえ、あの……お電話です。公衆電話、ありますか?」
「……電話?」
そこでようやく、10円玉の話とつながりました。
女性が尋ねていたのは「おでん」ではなく「お電話」。
私は肝心なところをすっかり聞き間違えていたのです。
「あっ!そっちですか!すみません!」
顔が熱くなるのを感じながら、私は入口の横に置いてあるピンク色の電話を指さしました。
「……あちらにございます」
急にかしこまった私の返事に、2人はまた笑いながら「ありがとうございます」と席を立ちました。
幸い、テーブル席のほかのお客さんには、このやり取りは聞こえていなかったようです。
ところが、恥ずかしい思いをしたのは、それだけでは終わりませんでした。
電話を終え、会計を済ませた2人が、帰り際にカウンター越しに声をかけてくれたのです。
「お好み焼き、おいしかったです。おでんも始めたら、また来ますね」
「あはは……ありがとうございます」
私はもう、笑って頭を下げるしかありませんでした。
あれから何十年もたちましたが、家族に「お電話よ」と呼ばれると、今でもあの夜のことを思い出します。
思わず台所の鍋に目を向けてしまうことがあるのは、あの日の聞き間違いが忘れられないからでしょう。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














