「なんで俺が数えなきゃいけないんだよ!」銀行の窓口で怒鳴った男性客。だが、上司の前で黙々と硬貨を数え始めた瞬間
年末の銀行に現れた貯金箱
私が銀行の窓口で働いていたころ、年末の混雑した日のことです。ロビーには朝から大勢のお客様がいて、私は番号を呼びながら、次々と手続きを進めていました。
そこへ、50代くらいの男性が番号札を持ってやってきました。いすに座ると、紙袋からプラスチック製のキャラクターの貯金箱を取り出したのです。
「これ、預けたいんだけど」
「かしこまりました。中の金額はお確かめいただいていますか?」
男性は少し眉をひそめました。
「いや、数えてないよ。そっちで数えてくれればいいだろ」
当時の支店では、硬貨を預ける際、お客様ご自身で金額を確認していただいてから受け付ける決まりがありました。
「申し訳ありません。お預かりする前に、金額をご確認いただくことになっていまして…」
「は?なんで俺が数えなきゃいけないんだよ!」
男性は声を荒らげ、貯金箱をカウンターに乱暴に置きました。ガシャンと大きな音が響き、ロビーにいた何人ものお客様が振り返ります。
「銀行なんだから、数えるのが仕事だろ!」
混雑したロビーで長く待たされたこともあってか、男性はすっかり腹を立てている様子でした。
私は驚いて言葉に詰まり、制服の袖口をぎゅっと握りました。
上司が静かに伝えた銀行の決まり
そのとき、背後でいすを引く音がしました。奥の席にいた50代くらいの男性の上司が立ち上がり、私の横まで来たのです。
上司は男性に軽く頭を下げると、落ち着いた声で言いました。
「お客様、あちらでお話を伺います」
男性は上司の顔を見上げ、カウンターについていた手をゆっくり下ろしました。
「……分かったよ」
上司はカウンターの外へ回り、男性を窓口の横にある低いカウンターへ案内しました。
二人が腰を下ろすと、上司は男性と目線を合わせ、ゆっくり話し始めました。
「お手数をおかけします。ただ、金額が分からないままではお預かりできないんです。先に確認をお願いできますか」
男性はしばらく黙っていましたが、やがて小さな声で答えました。
「……じゃあ、数えればいいんだな」
上司がうなずくと、男性は自分で貯金箱のふたを開け、硬貨を取り出し始めました。
さっきまでの怒鳴り声は、もう聞こえません。
男性は背中を丸め、硬貨を一枚ずつ確認していました。上司はその隣で、作業を見守っています。
私は次の番号を呼びながら、二人の様子をちらりと見ました。
つい先ほどまで、あれほど数えることを嫌がっていた男性が、今は黙々と小銭を分けているのです。
男性は最後まで、ほとんど顔を上げませんでした。
昼休みに思い出した男性の姿
昼休み、休憩室に入ると先輩が声をかけてきました。
「さっきの貯金箱のお客さん、大変だったね。大丈夫だった?」
「はい。でも、びっくりしました。あんなに怒ってたのに、上司が話したら急に静かになって……」
「そうだったね。こっちまでハラハラしたよ」
「しかも、最後は自分で一生懸命数えてたんですよ」
そう話しながら、私はあの丸まった背中を思い出しました。
窓口では話を聞いてもらえず、正直なところ怖い思いもしました。それだけに、上司の隣でおとなしく硬貨を数える姿には、なんとも複雑な気持ちになったのです。
「最初から数えてくれたらよかったのにね」
先輩の一言に、私も思わず笑ってしまいました。
同じ説明でも、伝える人や話す場所が変わるだけで、こんなにも相手の反応が違うのかと驚いた出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














