「まだうちの子の番じゃないし」授業参観で話し続ける母親。しかし、自分の息子が発表する番になると
小さくなっていく発表の声
小学校で教えていたころ、授業参観で忘れられない出来事がありました。
その日は、子どもたちが順番に黒板の前に立ち、調べたことを発表する授業でした。
ところが、授業が始まってからずっと、教室のうしろで数人の母親たちが話し込んでいたのです。
「ねえ、この前の集まり、来なかったよね?」
「うん、ちょっと用事があってさ」
最初は小声だったのですが、だんだん話が弾んできたようでした。
黒板の前では、一人の女の子が一生懸命に発表しています。しかし、ノートから顔を上げるたびにうしろが気になるようで、声が少しずつ小さくなっていきました。
私は教卓の横から、女の子にうなずきました。
「大丈夫だよ。続けてごらん」
近くに立っていた保護者も、何度か母親たちのほうを振り返っていました。眉をひそめる父親もいましたが、おしゃべりは止まりません。
そのうち、笑い声まで聞こえてきました。
「ちょっと、声大きいよ」
一緒にいた母親の一人が、小声で注意しました。
すると、明るい色のカーディガンを着た母親は、手をひらひら振って答えました。
「大丈夫だって。まだうちの子の番じゃないし」
その言葉を聞いて、私は驚きました。
自分の子どもが発表していなければ、話していても構わないと思っているのでしょうか。
もちろん、授業中の私語は注意すべきです。ただ、子どもが発表している最中に話を遮ることもためらわれ、私は声をかけるタイミングをつかめずにいました。
「ママ、しずかにしてて」
やがて、カーディガンの母親の息子が発表する番になりました。
男の子はノートを胸に抱え、黒板の前に立ちました。
ところが、教室のうしろではまだ話し声が続いています。
男の子は発表を始めず、母親のほうへ顔を向けました。
そして、はっきりした声で言ったのです。
「ママ、しずかにしてて」
母親たちの話し声が止まりました。
男の子は続けました。
「みんな、がんばって発表してるんだから」
近くの子どもたちが振り返り、ほかの保護者たちの視線も教室のうしろへ集まりました。
カーディガンの母親は、笑顔のまま動きを止めていました。
「えっ……いや、その……」
何か言おうとしたものの、言葉が続きません。
母親は頬を赤くしてうつむき、周囲で話していた母親たちも気まずそうに黙っていました。
静かになった教室で、男の子は何事もなかったように前へ向き直りました。
そしてノートを開き、背筋を伸ばしました。
「では、発表します」
さっきまでとは違い、その声が教室のうしろまではっきりと届きました。
私は教卓の横で、男の子に大きくうなずきました。
それ以降、授業が終わるまで母親たちの話し声は聞こえませんでした。
最初に小さな声で発表していた女の子も、友だちの発表に大きな拍手を送っていました。
母親たちは最後まで壁際で静かに立っていました。
本来なら、教師である私がもっと早く声をかけるべきだったのでしょう。
それでも、友だちの頑張りを大切に思い、自分の母親にもきちんと気持ちを伝えた男の子の姿が、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














