「作り帯で来るなんて品がないわ」妹の婚約祝いで、母の帯をけなす着物自慢の伯母。冷や汗がにじんだ額
妹の婚約祝いの、料亭の個室
母が作り帯で来たと話すと、伯母は品がないと言いました
「作り帯で来るなんて品がないわ。」
4月の土曜の昼、料亭のテーブル席の個室でのことです。婚約者のご家族との顔合わせは来月で、きょうは伯母が言い出した、妹の婚約を祝う内輪の食事会。母の姉である伯母と母、妹、私の女4人だけの席でした。
母が、締めやすい作り帯で来たと話したとたん、伯母は眉を寄せ、隣の母の帯を指さしました。髪を黒く染めた伯母は、親戚でいちばん着物にくわしい人で通っていました。
母は両手で帯の前を隠し、目を伏せました。主役の妹も、伯母の顔を見ています。
伯母は、帯は40年、毎回自分で結んでいると言いました
伯母は、自分の金茶の帯の前に手を当てました。
「帯は40年、毎回自分で結んでるの。」
「作り帯は一度も締めたことがない。」
伯母はいつも家で着付けを済ませてから来るので、帯を結ぶところを見た人は、親戚にひとりもいません。きょうもだれより先に着き、上座の背もたれの高い椅子に深くもたれて、座ったまま私たちを迎えました。
伯母は、今朝も自分で結んだと言って、窓のほうへ立ちました
料理が運ばれてくる前に、伯母が椅子から立ちながら言いました。
「今朝も5時に起きて自分で結んだの。」
「ここ、少し暑いわね。」
この席を言い出し、予約したのも伯母です。母は子どものころから、この伯母に逆らえたことがありません。それに、母の帯が作り帯なのは本当です。ここで言い返せば、母がさらに責められる気がして、私は言葉をのみました。
母の肩が小さくなり、私はひざの上で両手を握りしめました。伯母は窓を開けようと奥へ歩き、閉まっていた障子に手をかけます。
「帯は40年、毎回自分で結んでるの」
伯母のお太鼓の上から、母と同じ作り帯の金具が見えました
障子を開ける伯母の背中を見て、私は息をのみました。
金茶のお太鼓が、少し下にずれています。上のふちのすき間から、白い平たいひもと、銀色の金具がのぞいていました。椅子の背に強くもたれたせいか、お太鼓がずれていたのです。
「お太鼓の上に、金具が出てます。」
それは、母の帯と同じ、ひもと金具でお太鼓を胴の帯に掛けるタイプの作り帯に見えました。けさ、母の帯でその金具を掛けたのは、私でした。
伯母の手が、障子にかかったまま止まりました。
金具が付くのは作り帯のほうだと、私は伝えました
伯母は振り向き、両手をうしろに回してお太鼓を押さえました。
「ひもは、結んだ帯にもある!」
「金具が付くのは、作り帯のほうです。」
もちろん、普通の帯の着付けにも金具を使うことはあります。しかし、私が見たのは母の作り帯と同じ形の金具でした。胴に巻いた帯とは別のお太鼓部分を、その金具で引っ掛けているように見えたのです。伯母が言うように一本の帯を自分で結んでいたのなら、胴からお太鼓まで帯がつながっているはずでした。
母が、ひざの上で組んでいた両手をほどき、背すじをのばしました。
湯のみを包む伯母の額に、冷や汗がにじんでいました
伯母はお太鼓を押さえたまま席に戻り、椅子に腰を下ろすと、白い湯のみを両手で包みました。
「……ここ何年かは、作り帯なの。」
毎回自分で結ぶと言った帯は、母と同じ作り帯でした。
伯母の額に、冷や汗がにじんでいきます。湯のみを両手で包んだまま、伯母はうつむき、隣の母の顔を見ようとしませんでした。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














