「結納金ね、まだ用意してないのよ」当日の朝、母に言われた私が、結納返しを受け取って笑いそうになったワケ
戻らないと覚悟したお金
結婚が決まり、相手の家で結納を交わす日がやってきました。結納金の準備は前もって母に頼んであったので、私は当日まで心配していませんでした。
ところが、出かける直前のことです。結納の品の包みを抱えた母が、玄関で私を呼び止めました。
「結納金ね、まだ用意してないのよ」
「えっ、今日だよ? 前にお願いしたよね」
「もちろん覚えてたわよ。途中で銀行に寄ればいいと思って」
あまりにあっさりした返事に、私は言葉を失いました。慌てて車を出し、母と一緒に道沿いの銀行へ向かいました。
ところが、ATMで必要な額を引き出そうとしても、途中で操作が進みません。1日に引き出せる金額には上限があり、母の口座からは全額を用意できなかったのです。
「どうしよう、足りないわね……」
母はしばらく画面を見つめ、私に言いました。
「あんたのカードでも下ろせない?」
結局、足りない分は私の口座から出しました。自分の結納金なのに、自分で立て替えることになるとは思ってもいませんでした。
「この分は、あとでちゃんと返してよ」
「はいはい、そのうちね」
助手席の母は、どこまでも気楽な様子です。運転しながら私は、あのお金は戻ってこないかもしれないと、半ば諦めていました。
のし袋を受け取った瞬間
結納の席は、婚約者の家の和室に用意されていました。私と母が並んで正座し、向かいには和装の婚約者と、その父が座っています。
こちらからの結納金が納められ、儀式はおごそかに進みました。やがて婚約者の父が、のし袋を両手で持ち、私のほうへ差し出しました。
「こちらからも、お納めください」
結納返しでした。その瞬間、今朝の銀行での出来事が頭に浮かびました。
もちろん、母に立て替えたお金が返ってきたわけではありません。けれど、ほんの少し前に手放したお金が「ただいま」と戻ってきたように感じられ、急におかしくなったのです。
「ありがとうございます。頂戴いたします」
何とか声は落ち着かせましたが、口元が緩みそうになります。笑ってはいけないと思えば思うほど、顔を上げるのが大変でした。
結納のあと、控えの間で婚約者が私の顔をのぞき込みました。
「ねえ、さっき笑いそうになってたでしょ?」
「分かった?」
私が今朝の銀行での出来事を話すと、婚約者は声を上げて笑いました。
「じゃあ、あのお金に『おかえり』って言わなきゃね」
そこへ母が戻ってきて、何事もなかったように言いました。
「よかったじゃない、戻ってきて」
立て替えた分を返してもらう話は、まだ終わっていません。それなのに、あまりに堂々とした母の一言に、私もとうとう笑ってしまいました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














