「謝って。教室もやめて」エレベーターのボタンは私が押したと犯人扱いする料理教室の古株。だが、次の階で硬直
6階へ向かう木曜の朝
古株の女性は、2階も3階も押したのは私だと言いました
2階で止まったエレベーターの扉が開きました。外の廊下には、誰もいません。
古くてのろのろと上がる、雑居ビルの小さなエレベーター。6階の料理教室へ向かう木曜の朝です。
1階で乗り込んだのは、私と料理教室の古株の女性、そして先月入った20代の女性の3人でした。
6階のボタンを押したのは私です。ところが、あとから乗った古株の女性に押しのけられ、私は奥の壁ぎわへ。古株の女性は扉の横のボタン盤の前に立ち、大きな革のトートバッグを肩に掛けていました。
教室に通って10年になる古株の女性に対し、私はまだ入って2か月の新入りです。
開いた扉の前で、古株の女性が私を向きました。3階のボタンにも明かりがついています。
「2階も3階も、押したのはあなた。」
「私はボタンに指一本触れてない。」
外で呼んでも中は光らないと、古株の女性は言い切りました
扉が閉まり、また上がり始めます。外の乗り場で誰かが呼んだのでは、と言うと、古株の女性は首を振りました。
「外で呼んでも、中は光らない。」
同じ組の20代の女性の目が、扉の横の古株の女性へ向きました。古株の女性は胸を張って言います。
「乗ってから一歩も、ここを動いてない。」
確かに、古株の女性は乗り込んでからずっとボタン盤の前に立っていました。私も奥に下がってからは、一度もボタンに近づいていません。
教室もやめてと言われ、私は手さげを胸に引き寄せました
3階でも止まり、扉の外には誰の姿もありません。
「謝って。教室もやめて。」
先生に話して、木曜の組から外してもらうと言うのです。
以前、先生が私の煮物をほめたとき、古株の女性は不機嫌そうに黙り込んでいました。それ以来、私の作業に細かく口を出したり、ほかの生徒の前で注意したりすることが増えていたのです。
今回のボタンの件も、私を責める口実にされているように感じました。
私は奥の壁に背中を押しつけ、手さげを胸に引き寄せました。
口添えでもらった木曜の席
6階まで手は肩の上でと言い、私は両手を上げました
扉が閉まり、4階へ向かって動き出しました。
そもそも、私が木曜の組に入れたのは、古株の女性が空きのある曜日を教えてくれたからでした。先生とも長い付き合いがあるため、私の話を聞いてもらえるのか不安でした。
それでも、押していないボタンのことで謝るわけにはいきません。
私はボタン盤に目を向けました。4階と5階のボタンは、まだ光っていません。
今から3人とも手を上げて、新しくボタンが光るかどうか確かめれば、少なくとも誰かが指で押したのかは分かるはずです。
「6階まで、3人とも手は肩の上で。」
私は奥の壁に背中をつけて、両手を肩の上に上げました。同じ組の20代の女性もすぐに続きます。
3人とも手を上げているのに、ボタンがまた光りました
古株の女性も、いいわよと胸を張って両手を上げます。
その拍子に、肩に掛けていた大きなトートバッグが持ち上がり、ボタン盤の前で傾きました。次の瞬間、古株の女性の肩の向こうで、ボタンがひとつ橙色に光りました。
光ったのは4階のボタンです。
古株の女性の体とボタン盤の間にあった、硬い革のトートバッグ。その角が、4階のボタンに当たっていたのです。
3人とも両手を上げていたため、誰かが指で押したわけではありません。
思い返せば、古株の女性は1階で乗り込んだときも、大きなトートバッグを肩に掛けたまま、ボタン盤の前で体の向きを変えていました。あのとき、バッグが2階と3階のボタンにも触れた可能性があります。
「押したのは、トートの角です。」
古株の女性は両手を上げたまま首をひねり、肩の向こうを見ました。
古株の女性は両手を上げたまま、開いた扉の前で固まりました
4階で、3度目に止まりました。開いた扉の外の廊下に、人影はありません。
「外で誰かが呼んだに違いない!」
「光るのを、3人で見ました。」
古株の女性が何か言い返そうとしましたが、肩のトートバッグを見て口を閉じました。
同じ組の20代の女性も手を下ろし、黙って古株の女性を見ています。
2階と3階については断定できません。それでも、少なくとも4階のボタンを押したのは私ではなく、古株の女性のバッグでした。
木曜の組から外すと言われたことも含め、先生には私から事情を説明するつもりです。私は同じ組の女性の前で、そう伝えました。
扉が閉まるまで、古株の女性は両手を上げたまま、ボタン盤から体を引きはがした格好で、用のない4階の扉の前に固まっていました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














