母の本当の気持ち
母、佳江(よしえ)が亡くなって一ヶ月が経ちました。
正直、私は母との関係がうまくいっていませんでした。
「美咲(みさき)は夢ばかり見て。もっと現実を見なさい」
東京でデザイナーになるという私の夢を、母は最後まで応援してくれませんでした。
それが原因で大喧嘩になり、ろくに口も聞かないまま、母は突然倒れて逝ってしまったのです。
後悔だけが募っていました。
そんな葬儀の後、兄の徹(とおる)が「これ、見つけたんだ」と母の古いスマホを私に見せました。
「“遺言アプリ”だって。お袋、こんなの使ってたんだな。美咲宛のファイルがあるぞ」
遺言アプリ? ITに疎い母が? 意外に思いながらも、兄と二人でパスコードを探し当て、そのファイルを開きました。
そこには、まず短い文章がありました。
『美咲へ。まず、ごめんなさい。あなたは私の自慢の娘です。どうか、幸せになってね。』
最後のメッセージ
いつもの母らしくない、素直な言葉。
それだけでも胸が詰まったのですが、その下に「最後のメッセージ」という動画ファイルがあることに気づきました。
ためらいながら再生ボタンを押すと、見慣れない、病院のベッドらしき場所で、少し痩せた母が映りました。
「……美咲。見てるかな。これをあなたが見ているということは、お母さんはもういないのね」
母は、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めました。
「あなたと喧嘩した日のこと、覚えてる? あなたが東京に行きたいって言った日。……あの日ね、お母さん、病院で……もう自分があまり長くないって、言われてたの」
え? 私は息を飲みました。そんなこと、ひと言も……。
「あなたが優しい子だって知ってるから。病気のことを知ったら、きっと夢を諦めて、お母さんのそばにいようとするでしょう。……それが、お母さん、嫌だったの」
母は涙をこらえながら、続けます。
「だから、わざと突き放した。『現実を見ろ』なんて、ひどいこと言って。本当にごめんね……。本当はずっと、あなたに夢を叶えてほしかった。世界で一番、応援してた。自慢の娘だったから」
動画はそこで途切れました。
私は声も出ませんでした。母が私を応援してくれなかったんじゃない。
私が夢を諦めないように、私の未来のために、わざと嫌われ役になっていたなんて。
「お母さん……うそでしょ……」
冷たく感じていた母の態度は、私への最後の、そして最大の愛情表現だったのです。
もっと話したいことがありました。謝りたいことがありました。
でも、もう母はいません。 私は今、母が「行け」と背中を押してくれた東京で、デザイナーの卵として必死に頑張っています。
母の愛を、この胸に抱いて。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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