「ありがとうございます」朝の混んだ電車で席を譲られた子ども。母親に促される前に口にした一言
揺れる車内で立っていた親子
朝の混んだ電車で、私はドアの脇に立っていました。
少し離れたところには、小さな子どもとお母さんがいました。
子どもは背伸びをしながら、届きにくいつり革に指先をかけています。
電車が揺れるたびに体がふらつき、お母さんは片手で子どもの肩を支え、もう片方の腕で大きな鞄を抱えていました。
危なそうだな、とは思いました。それでも私は見ているだけでした。座っている人たちも、誰かが悪いわけではありません。
朝の車内で、それぞれ静かに過ごしていました。
すると、近くの座席にいた男性が本を閉じ、鞄を持って立ち上がりました。
「どうぞ」
お母さんはすぐに首を振りました。
「いえ、大丈夫です」
男性がもう一度すすめると、お母さんは「すぐ降りますので」と答えます。
それでも男性は押しつけるような様子はなく、少し離れたところからもう一度、「どうぞ」と声をかけました。
「ありがとうございます。でも…」
三度断ったあと、お母さんはようやく会釈しました。子どもはつり革から手を離し、空いた席に座りました。
子どもの口から出た「ありがとうございます」
座った子どもは、しばらく窓のほうを見ていました。
ところが少しして顔を上げると、席を譲ってくれた男性を見て言ったのです。
「ありがとうございます」
少なくとも私には、お母さんに促されて言ったようには見えませんでした。
男性は少し笑って、静かにうなずきました。そして次の駅で、そのまま電車を降りていきました。
お母さんはその背中にもう一度頭を下げていました。
近くに立っていた女性が、小さな声で「あの子、自分で言ったね」とつぶやきました。
私も同じことを思っていました。電車を降りてからも、子どもの「ありがとうございます」という声が、不思議と耳に残っていました。
それから、断り続けるのをやめた
私にも小さい子どもがいます。子どもを連れて電車に乗るときは、なるべく邪魔にならない場所に立ち、揺れると背中に手を添えています。
そして席をすすめてもらったとき、以前の私は「大丈夫です」と何度も断っていました。ありがたいと思う一方で、自分たちのために立ってもらうのが申し訳なく感じていたからです。
あの日のお母さんが、同じ気持ちだったのかは分かりません。
ただ、何度も断ることで、かえって譲ってくれた人を困らせてしまうこともあるのだと気づきました。
それからは、席が必要なときには何度も遠慮せず、「ありがとうございます」と受け取るようにしています。
譲ってもらった席以上に心に残ったのは、自分からお礼を伝えたあの子の姿でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














