「長男だけ、得をしてるだろう」祖父の法事で叔父が口にした不満。だが、叔母の一言で空気が一変
座敷の音が、叔父の声だけになったとき
祖父の法事は、数年前のことです。座敷には人数ぶんの折の弁当が並び、親戚たちは祖父の昔話をしながら食事をしていました。
誰かが祖父の口ぐせをまねると笑いが起き、先に食べ終えた子どもたちは庭へ出ていきました。私は、こうして集まれるのだから、親戚同士の仲は悪くないのだと思っていました。
食事が半分ほど進んだころです。叔父が箸を置きました。
「俺は、あのときの分け方には今でも納得してないんだ」
それまで続いていた会話が止まりました。
「長男だけ、得をしてるだろう」
その言葉を向けられた伯父は、何も言い返しませんでした。
湯呑みを前に置いたまま、黙って叔父を見ています。
叔父の声は少しずつ大きくなりました。
庭にいた子どもたちも戻ってきましたが、座敷の空気を感じたのか、そのまま静かになりました。
私は何を言えばいいのか分からず、黙って座っていました。
帰りの車で母が言ったのは、叔父を責める言葉ではなかった
叔父の隣にいた叔母が、自分の弁当にそっとふたをしました。
それから空いた器を端へ寄せながら、叔父に言いました。
「今日はその話をする日じゃないでしょう」
声を張ることも、叔父を責めることもありませんでした。
「あとで、ちゃんと聞くから」
叔父はしばらく黙っていました。
「……ああ」
それだけ答えると、それ以上は話しませんでした。
誰かが叔父に謝るよう求めたわけでも、席を立たせたわけでもありません。少しして食事は終わり、叔母は残った器を片づけながら、ほかの人にもお茶を配っていました。
帰り支度をしているとき、母が小声で教えてくれました。叔父の不満は、その日に突然出てきたものではなく、何年も前から残っていたそうです。ただ、親戚が集まる場では誰も口にしてこなかったのだといいます。
私はそれまで、みんなが笑って話している姿だけを見て、何も問題はないのだと思っていました。
帰りの車では、しばらく誰も話しませんでした。信号で車が止まったとき、母がぽつりと言いました。
「おじいちゃんが見ていたら、悲しむだろうね」
「うん」
私が返せたのは、それだけでした。
祖父が生きていたころも、叔父の中には同じ思いがあったのかもしれません。それでも、祖父の前では誰もその話をしなかったのでしょう。
今も親戚で集まることはあります。けれど、あの日の話を持ち出す人はいません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














