「今の見た?」友人と顔を見合わせた居酒屋。隣の客が帰った3分後、残された皿に伸びた手
隣り合っていても、別々のグループだった
友人と居酒屋で飲んでいた夜のことです。
少し離れたところに、隣り合った二つのテーブルがありました。それぞれ別のグループらしく、食事をしている間も、互いに話しかけたり行き来したりする様子はありませんでした。
店内はほとんどの席が埋まり、注文する声や食器の音が絶えません。私たちも自分たちの話に夢中で、その二つのテーブルを特に気にしてはいませんでした。
やがて、片方のグループが会計をして店を出ました。
テーブルには食べ終えていない料理の皿が残っていましたが、店員さんはまだ片づけに来ていません。
それから3分ほどたったころです。
隣のテーブルにいた一人が、ふいにその皿へ手を伸ばしました。そして、残っていた料理を取って口に運んだのです。
一瞬、何を見たのか分かりませんでした。
「……今の見た?」
私が小声で聞くと、友人もこちらを見ました。
「見た」
それだけ言って、二人とも黙ってしまいました。
「知り合いだったのかな」と確かめたけれど
少しして、私は友人に聞きました。
「あの人たち、知り合いだったのかな」
「どうだろう。でも、さっきまで全然話してなかったよな」
思い返しても、二つのテーブルの間で挨拶をしたり、料理を分けたりする様子は見ていません。
もちろん、私たちが知らないだけで、もともと知り合いだった可能性もあります。
それでも、目の前で起きたことにどう反応すればいいのか分からず、私たちは顔を見合わせるだけでした。
その人と同じテーブルにいた人たちも特に何も言いません。私たちも店員さんに声をかけることはできず、そのまま自分たちの席に座っていました。
何も言えないまま店を出た
しばらくして店員さんが片づけに来ると、残っていた皿をほかの食器と一緒に下げていきました。
友人が小さな声で言いました。
「どうする?」
私は少し迷ってから答えました。
「……どうもしないでおこう」
私たちに直接何かをされたわけではありません。それ以上じろじろ見るのも違う気がして、その後はなるべくそちらを見ないようにしました。
その人たちは最後までこちらを気にする様子もなく、やがて会計をして店を出ていきました。
私は今でもその店に行きますが、あの人たちを見かけたことはありません。
残された料理に手を伸ばしたこと以上に覚えているのは、その場で誰も何も言えず、友人と顔を見合わせた時間です。あのとき何が正解だったのかは、今でも分かりません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














