「家みたいにくつろいでたね」電車の座席に足を乗せて眠る夫婦。だが、思わず笑ってしまったワケ
腹を立てかけた、あの瞬間のこと
出張の帰りに乗った電車で、私は一度だけ、腹を立てかけたのに妙に感心してしまったことがある。
四人分の席が向かい合う古い車両で、車内はかなり空いていた。窓際にも空席があり、立っている人は一人もいない。荷物を隣の席に置いている人もいるくらいだった。
そんな車内で、年配のご夫婦が向かい合って座り、靴を脱いで向かいの座席に足を乗せたまま眠っていた。
二人だけで四席を使っている状態だった。
「さすがに、これはちょっと…」
空いているとはいえ、座席に足を乗せるのはどうなのだろう。そう思いながら何気なく足元を見ると、そこで目が止まった。
脱いだ靴が、座席の下にきちんと揃えて置かれていたのだ。
二足ともつま先は同じ方向。かかとの位置まで揃い、通路側にはみ出してもいない。
「……そこは、ちゃんとするんだ」
腹を立てかけていたのに、思わず感心してしまった。
隣に座っていた同僚を肘で軽くつつく。
「あれ、見て」
同僚も足元を見て、小さく吹き出した。
「ほんとだ。すごい揃ってる」
「そこだけ妙に丁寧なんだよな」
二人で窓のほうを向き、笑いをこらえた。行儀がいいのか悪いのか、なんとも言えない光景だった。
最後まで丁寧だった、足元の動き
ご夫婦は、次の大きな駅で目を覚まして降りていった。
座席から足を下ろすと、揃えていた靴にそっと足を入れ、かかとの位置を指で直している。その動作も、やはり妙に丁寧だった。
二人が降りたあと、同僚が空いた席を見ながら言った。
「なんか、家みたいにくつろいでたね」
「確かに。靴まで揃えてたしね」
もちろん、公共の座席に足を乗せるのは気になる。それでも、あれほどきれいに靴を揃えていた姿とのちぐはぐさが、どうにも頭から離れなかった。
今でも似たような向かい合わせの座席を見ると、私はふと足元を見てしまう。
あの日、座席の下にぴたりと並んでいた二足の靴を思い出して、少しだけ笑ってしまうのだ。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














