「風で飛んできたと思っていたのに」週に2度自転車のかごに残るゴミ。だが、防犯カメラに映っていた人物とは
雨上がりのかごに残っていたゴミ
あのころ住んでいたのは、2階建ての古いアパートだった。
1階の端には屋根つきの駐輪場があり、仕事帰りにスーパーへ寄ることが多かった僕は、ほぼ毎日自転車を使っていた。
最初に気づいたのは、雨上がりの朝だった。
自転車の前かごを見ると、底に濡れたチラシと、つぶれた紙パックが貼りついていた。
「こんなところまで飛んできたのか」
そのときは、風で入り込んだのだと思い、それほど気にしなかった。
ところが、その後もかごの中にゴミが入っていることがあった。しかも、晴れていて風のない日にも続いた。
さすがに気になり、ゴミが入っていた日を手帳に控えるようにした。
しばらくすると、月曜と木曜あたりに多く、週に2度ほどのペースで続いていることが分かった。
さらに不思議だったのは、周囲の自転車にはゴミがなく、僕のかごにだけ入っていることだった。
月に一度、管理会社の担当者が建物の見回りに来る。
その日も40代くらいの男性担当者が、駐輪場の前を掃除していた。
僕は思い切って声をかけた。
「すみません、ちょっと相談してもいいですか」
「はい。どうされました?」
「最近、僕の自転車のかごにゴミが入っていることが多くて…。最初は風だと思っていたんですけど、週に2回くらい続いてるんです」
担当者は手を止めた。
「そんなにですか。ほかの自転車にも入っていますか?」
「いえ、見た限りでは僕のだけです。気になって、日付も控えてあります」
僕が手帳を見せると、担当者は日付を確認したあと、駐輪場の天井の隅にあるカメラを見上げた。
「この日なら記録が残っていると思います。確認してから、ご連絡しますね」
映っていたのは、隣の部屋の住人だった
一週間ほどして、担当者から電話があった。
確認した記録には、夜になると隣の部屋の男性が駐輪場へ下りてきて、僕の自転車のかごにゴミやチラシを入れる様子が映っていたという。
隣に住んでいるのは50代くらいの男性で、顔を合わせれば挨拶をする程度の相手だった。
まさか隣の人だったとは思わず、僕はしばらく言葉が出なかった。
担当者は続けた。
「こちらからお話しします。今度の土曜日の夕方に、お部屋へうかがいますね」
直接言いに行く勇気はなかったので、管理会社が間に入ってくれることにほっとした。
その土曜日、買い物から戻り、階段を上がりかけたところで、2階の外廊下に担当者の姿が見えた。隣の部屋のドアが半分ほど開いている。
「ほかの方の自転車にゴミを入れるのは、おやめください。駐輪場には防犯カメラがあります」
「カメラ……?いや、俺は…」
男性は何か言いかけたものの、担当者が持っているファイルに目を落とした。
担当者は声を荒らげることなく、もう一度伝えた。
「ほかの方の自転車にゴミを入れるのは、おやめください」
少し間があった。
「…わかりました」
男性は担当者と目を合わせないままそう答え、ドアを閉めた。
向かいの部屋のドアも一度だけ細く開いたが、住人はすぐに顔を引っこめた。
担当者は階段の途中にいた僕に気づくと、軽くうなずいた。
「ありがとうございました」
僕も小さく頭を下げた。
それから、かごにゴミは入らなくなった
その日を境に、自転車のかごにゴミが入ることはなくなった。
駐輪場で隣の男性を見かけることはあったが、男性は自分の自転車だけを見て、僕のほうへ目を向けることはなかった。
なぜ僕の自転車にゴミを入れていたのかは、結局分からないままだ。
それでも、自分で相手を問い詰めず、記録を残して管理会社へ相談したことで、大きなトラブルにならずに済んだ。
次の週末、スーパーで買い物を終えた僕は、何も入っていないきれいなかごに買い物袋を置いた。
それだけのことなのに、以前よりずっと気持ちよくペダルを踏めた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














