「水くさいな、5万円くらい兄貴が払えよ」支払いが終わるころに席へ戻る叔父が、自分の前の伝票に固まった瞬間
会計のたびに席を外す叔父
親族10人ほどが集まる食事会が、年に2、3回あります。場所はいつも和食店の個室。
70代の父が私の隣に座り、その向かいには父の弟である叔父が座っています。
この食事会では、長男である父がずっと全員の代金を払ってきました。
ところが叔父には、以前から気になる行動がありました。
店員が伝票を持ってくるころになると、決まって席を立つのです。そして支払いが終わったころに、何事もなかったように戻ってきます。
最初は偶然だと思っていました。でも、同じことが5回も続くと、さすがに気になります。
父は年金暮らしになってからも、ため息をつきながら全員分を払い続けていました。
前回の食事会のあと、父は店の玄関先で叔父を呼び止めました。
私もすぐ横にいたので、2人の会話を聞いていました。
「なあ、お前もたまには自分の分を出してくれないか」
「え、今さら?こういうのは長男が払うもんだろ」
「今まではそうしてきたけどな。わしも年金暮らしだし、毎回は厳しいんだよ」
すると叔父は笑いながら、父の肩をたたきました。
「水くさいな、5万円くらい兄貴が払えよ」
その言葉に、父は黙ってしまいました。
祖父が家族の支払いを引き受ける姿を見て育った叔父には、それが当たり前になっているのかもしれません。
でも、父が困っているのは明らかでした。
私もこれ以上は見過ごせず、父と相談して、次の食事会では1人ずつ会計ができるよう、予約の際に店へお願いすることにしました。
叔父の席にだけ残された伝票
そして迎えた次の食事会。
料理が片づくころになると、叔父はいつものように立ち上がりました。
「ちょっと手洗いに行ってくるわ」
叔父が個室を出ていくと、店員が事前にお願いしていた1人分ずつの伝票を持ってきました。
父は伝票を受け取り、席順に回していきます。
「兄さん、これでいいのよ。もっと早くこうすればよかった」
叔母がそう言って、自分の伝票を受け取りました。
「これでお願いします」
いとこも店員に伝票を渡し、支払いを済ませます。
私も自分の分を払い、父を含めたほかの親族も順番に会計を済ませました。
最後に残ったのは、叔父の席の前に置かれた1枚の伝票だけです。
それから10分ほどして、個室のふすまが開きました。
「いやあ、待たせたな。もう会計は済んだか?」
いつものように笑いながら戻ってきた叔父でしたが、自分の席の前を見ると、ぴたりと足を止めました。
「……あれ?俺の分だけ残ってるのか」
父は叔父を見上げ、落ち着いた声で答えました。
「そうだよ。みんな自分の分は払った。これからは、お前も自分の分を頼むよ」
「え…みんな、もう払ったのか?」
叔父が周囲を見回すと、私も叔母もいとこも、黙ってうなずきました。
叔父は何か言いかけましたが、結局何も言わず、伝票を手に取ってレジへ向かいました。
しばらくして戻ってくると、父の向かいに座り、少し気まずそうに頭をかきました。
「……悪かったな、兄貴。今までずっと」
父は小さく笑って答えました。
「次は、最後まで座っとけ」
その言葉に、個室にも小さな笑いが広がりました。
それからの食事会では、叔父が会計の時間に席を外すことはなくなりました。自分の分をきちんと払い、帰りには父と並んで店を出ていきます。
長年続いていた習慣でしたが、あの日を境に、ようやく変わったのでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














