「あの車、譲ってもらえませんか?」駐車場の管理会社に突然電話してきた男性。だが、何度断っても話が終わらなかったワケ
駐車場の管理会社にかかってきた意外な電話
以前、不動産会社で月極駐車場の管理を担当していたころの話です。
契約手続きや空き区画の案内、駐車場の見回りなどが私の仕事でした。
電話での問い合わせも多く、普段は契約や空き状況についての相談がほとんどでした。
ある日の昼、私は事務所で駐車場の資料を確認していました。向かいの席では、女性の先輩が書類に目を通しています。
そこへ一本の外線が入りました。
「はい、お電話ありがとうございます」
「あの、そちらって駐車場を管理している会社さんですよね?」
電話の相手は、初めて話す男性でした。
空き区画の問い合わせかと思い、私はペンを手に取りました。
ところが、男性の口から出てきたのは予想もしない言葉だったのです。
「そちらの駐車場に、すごいスポーツカーがとまっていますよね。あの車、譲ってもらえませんか?」
「……えっ?お車を、ですか?」
思わず聞き返してしまいました。
男性によると、通りがかった際にその車を見つけ、駐車場の看板に書かれていた番号へ電話をかけたそうです。
「いやあ、本当に珍しい車なんですよ。あんな車、めったに見られませんから!」
声は弾み、興奮しているのが伝わってきました。
「申し訳ありません。あのお車はご契約者様のものですので、私どもからお譲りすることはできないんです」
「そうですよね……。でも、そこをなんとかなりませんか?」
私は困ってしまいました。
何度断っても続く、スポーツカーへの熱い思い
こちらから車を譲ることはできないと説明しても、男性はなかなか引き下がりません。
怒鳴ったり、乱暴な言葉を使ったりするわけではありません。ただ、どうしてもあの車が気になるようでした。
そして少し間を置くと、男性は遠慮がちに言いました。
「じゃあ……持ち主の連絡先だけでも教えてほしい」
「申し訳ありませんが、それは個人情報ですので、お教えできないんです」
「ああ、やっぱりそうですよね…」
ようやく電話が終わるかと思った、そのときです。
「でも、本当にいい車なんですよ。あの色もいいし、横から見た形もたまらなくて!」
男性は再び、スポーツカーの魅力を語り始めました。
車体の色や形だけでなく、エンジンの音の素晴らしさまで、話は止まりません。
私は「そうなんですね」「なるほど…」と相づちを打ちながら、どうやって話を終えようかと考えていました。
向かいの先輩も、なかなか電話を切れない私を不思議そうに見ています。
やがて男性の話が少し途切れたところで、私は静かに伝えました。
「それほど素敵なお車なんですね。きっと持ち主の方も、大切にされているんだと思います」
すると、男性はしばらく黙り込みました。
「……そうですよね。大事にしてもらえているなら、それでいいんです」
先ほどまでの勢いが嘘のように、落ち着いた声でした。
「いやあ、長々とすみませんでした。ありがとうございました」
そう言って、ようやく電話は終わりました。
受話器を置いた途端、向かいの先輩が身を乗り出してきました。
「ねえ、今の何の電話?ずいぶん長かったけど」
「それが……駐車場の問い合わせじゃなくて、車への愛の告白でした」
先輩は一瞬きょとんとしたあと、手で口を押さえて笑い始めました。
私もつられて笑ってしまいました。
それ以来、あの駐車場を見回るたびに、つい例のスポーツカーに目が向きます。
あの男性は、本当にあの車が好きだったんだな。
そう思い出すたび、少しおかしくて、なんだか温かい気持ちになるのです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














