「帰ってきたなら、作れるだろ」産後すぐの私に言い放った夫。だが、誰もいない家でひとり青ざめた
帰った家に、ねぎらいはなかった
妊娠八ヶ月を過ぎても、夫の金曜日は空いていた。
「今のうちに飲んどかないと」
それが口癖だった。張った腹を抱えて見送りながら、私は自分に言い聞かせた。産まれたら、この人も家にいるようになる、と。
甘かった。息子が産まれても、夫は週末になると靴を履いた。
入院中に病室へ来たのは二回きり。ガラス越しの新生児室を一度も覗かず、「まだ帰れないの?」とだけ聞いて帰っていった。
退院の日、病院から戻った私を待っていたのは、点けっぱなしのテレビと、流しに積まれた皿だった。
「退院したんだろ、飯はまだなの」
腕の中の息子が、急に重くなった気がした。
「……今、帰ってきたところなんだけど」
「だから、飯は?」
「私、退院したばっかりなの」
「帰ってきたなら、作れるだろ」
その夜も夫は出かけた。玄関で「たまにはいいだろ」とつぶやきながら。
三日で、家は止まった
翌朝、私は息子を抱いて家を出た。行き先は実家。帰る予定なんて、一度もしていなかった。
母は何も聞かず、玄関で息子を受け取って「重いねえ」と笑った。台所からは味噌汁の匂いがしていた。
座布団の上で、私は産んでから初めて足を伸ばした。畳のにおいと、遠くで鳴る炊飯器の音。天井の木目を眺めているうちに、いつのまにか眠っていた。
夫からの通知が増え始めたのは、昼を過ぎた頃だ。
「勝手に出てくとか、ないだろ」
読んで、そのまま置いた。
二日目の夜、着信が続いた。
「洗剤って、どこにあるの」
「ワイシャツ、明日の分がないんだけど」
三日目、声はもう震えていた。
「シンク、置く場所がないんだよ。ごみの日、いつだっけ」
私は電話を耳に当てたまま、静かに答えた。
「あなたのいない家に、私はずっとひとりでいたよ」
受話器の向こうで、息を呑む音がした。何かを言いかけて、飲み込んで、それきり黙った。
その日の夕方、実家のチャイムが鳴った。立っていた夫は無精ひげのまま、顔が白かった。
「……ごめん」
目は合わせられず、握った手だけが震えている。
「三日で、何もできなくなった。俺、家のこと何ひとつ知らなかった」
母が「まあ上がって」と声をかけても、夫は框に座り込んだきり、立てずにいた。
私は「そう」とだけ言った。慰めはしなかった。
家に戻った最初の金曜日。夫はスマホの画面を伏せて、息子のそばにあぐらをかいた。
「今日は、行かない」
その声を、私は台所で聞いていた。夫の週末が家にあるのは、それからずっと変わっていない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














