「手で触っちゃだめなんだって」朝食バイキングでパンを次々に触る男の子。だが、注意しなかった父親が顔を赤くした瞬間
楽しみにしていた丸いパン
家族旅行でホテルに泊まった翌朝のことです。
子どもは起きたときから朝食バイキングを楽しみにしていました。
会場に入ると、パンのコーナーを指さして言いました。
「あの丸いパンが食べたい!」
妻と子どもには席で待ってもらい、私はパンを取る列に並びました。
私の前にいたのは、小さな男の子とその父親です。父親は男の子の頭をなでながら、にこにこと笑っていました。
「ほら、好きなの選んでいいぞ」
男の子はうれしそうにかごへ手を伸ばしました。
ところが、トングを使わず、パンを素手でつかんだのです。
手の中で裏返して眺めると、そのパンを元の場所へ戻しました。そして、また別のパンに手を伸ばします。
私は思わず目を疑いました。
すぐそばにはトングがあります。それなのに、父親は注意するどころか、楽しそうに笑っていました。
「なんだ、それも気に入らないのか?」
後ろにいた客が咳払いをしましたが、父親は気にする様子もありません。
「旅行なんだから、好きなのを選べばいいよ」
男の子が次々にパンを触るのを見ながら、そう声をかけていました。
子どもが楽しみにしていた丸いパンも、男の子が何度か手に取っていました。
私も声をかけようか迷いましたが、なかなか言い出せません。ほかの客も困った様子で、パンを取らずに通り過ぎていきました。
さすがに、あのパンを子どもに食べさせる気にはなれませんでした。
パンのかごを取り替えたスタッフ
そのとき、制服姿の若い女性スタッフが、新しいパンのかごを持ってやってきました。
スタッフは男の子が触っていたパンのかごを下げ、焼きたてのパンが入ったかごに取り替えました。
「えっ、まだ選んでたんだけど」
父親が戸惑ったように声を上げます。
するとスタッフは、そばにあったトングを手に取り、父親に差し出しました。
「申し訳ありません。パンはこちらのトングでお願いいたします」
父親は差し出されたトングを見つめたまま、すぐには受け取ろうとしません。
そのとき、隣にいた男の子が父親の服の裾を引っぱりました。
「手で触っちゃだめなんだって」
父親を見上げながら、男の子はそう言ったのです。
父親は何か言いかけましたが、結局、何も言いませんでした。
顔を赤くしながら黙ってトングを受け取り、そのままかごの前を離れていきました。
先ほど咳払いをしていた客も、その様子を見て小さくうなずいていました。
私は席へ戻り、待っていた子どもを連れてパンのコーナーに向かいました。
取り替えられたばかりのかごには、お目当ての丸いパンが並んでいます。
「トングで取るんだよね」
「そうだよ。よく知ってるな」
子どもと一緒にトングでパンを取り、お皿にのせました。
子どもはうれしそうにパンを見つめていました。
ようやく安心して朝食を楽しめそうだと、私もほっとしたのでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














