「別室で詳しくお話を伺えますか」ホテルの朝食で大量の納豆を巾着に詰めていた夫婦。だが、責任者が声をかけた結果
空っぽになった納豆のかご
家族旅行でホテルに泊まったときのことです。
朝食はバイキング形式で、息子は前の晩から楽しみにしていました。朝食会場で息子と席に着き、料理の並んだ台を眺めていると、隣のテーブルが目に入りました。
そこには年配の夫婦が座っていたのですが、テーブルの上には納豆のパックがいくつも積み上がっていたのです。
「ずいぶん納豆が好きな人たちなんだな」
最初はその程度にしか思っていませんでした。
ところが、しばらくすると妻が巾着からビニール袋を取り出し、納豆のパックを次々と詰め始めたのです。
夫はその手元を見て、落ち着かない様子で声をかけました。
「おい、そんなに入れて大丈夫か」
「どうせ余ったら捨てるんでしょう。もったいないじゃないの」
妻は手を止めません。
夫もそれ以上は何も言わず、再び料理の台へ向かいました。
そして戻ってくると、手に持っていた納豆のパックを妻の前に置いたのです。
私が息子のために納豆を取りに行くと、かごは空っぽでした。
仕方なく席へ戻ると、隣では先ほど夫が持ってきた納豆まで袋に詰められていました。
「ママ、なっとうないの?」
残念そうに尋ねる息子。
その声が聞こえたのか、隣の妻がこちらをちらりと見ました。そして夫に向かって言ったのです。
「なくなってから言われてもねえ」
私は何も言えず、息子の皿にパンをのせました。
周囲のテーブルでも、夫婦の様子を気にする人が出始めていました。
責任者がかけた一言
そのとき、会場の奥から黒い制服を着た責任者が近づいてきました。
ちょうど妻が、納豆の詰まったビニール袋を巾着へ押し込もうとしているところでした。
責任者は二人のテーブルの前で足を止め、袋に視線を向けました。
そして、落ち着いた声で言いました。
「すみません。別室で詳しくお話を伺えますか」
妻は驚いた様子で顔を上げました。
「えっ……私たちですか?」
「はい。少しお時間をいただけますか」
夫は妻の巾着に目をやり、困ったように口を開きました。
「いや、これは、その…」
しかし、うまく説明できないようでした。
妻も何か言いかけましたが、結局黙って巾着を握り直しました。
二人は席を立ち、責任者について会場を出ていきました。
その様子を見ていた息子が、小さな声で聞いてきました。
「ねえ、あの人たち、どうしたの?」
私は少し考えてから答えました。
「お皿に取るのは、ここで食べるぶんだけ。それが決まりなんだよ」
息子は「そっか」とうなずき、パンを食べ始めました。
しばらくすると、スタッフが空になっていたかごに納豆を補充してくれました。
息子と一緒に取りに行き、ようやく私も自分の皿の納豆を味わうことができました。
せっかくの楽しい旅行の朝。ほんの少し周囲のことを考えるだけで、みんなが気持ちよく食事を楽しめるのに、と思った出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














