「大変だったね。塩でもまいておきな」店員を急かして舌打ちした客。出口の手前で駆け足になった瞬間
包装を急かす声が、レジまで聞こえてきた
その朝、私はレジの列に並びながら、横にあるサービスカウンターを何となく見ていました。
カウンターには細長い箱が三つ並び、若い女性店員さんが、そうめんの箱に一つずつ包装紙をかけているところでした。
手元を何度も確かめながら包んでいて、まだ作業に慣れていないように見えました。
その前に立っていた三十代くらいの男性が、いら立った声を上げました。
「急いでるんだよ。そうめん三つ包むのに、まだかかるの?」
包み始めてから、それほど時間は経っていなかったと思います。
「申し訳ありません。もう少々お待ちください」
店員さんはそう答え、手を止めずに包装を続けました。
ところが、少しすると男性はもう一度、「まだ?」と声を上げました。
近くにいた人たちも気づいたようでしたが、誰も声をかけません。
私も直接注意する勇気はありませんでした。
ただ、店員さんの手がさっきより速くなっているのを見ていると、そのままにはできませんでした。
私はいったん列を抜け、売り場にいた別の店員さんへ声をかけました。
「すみません。サービスカウンター、手伝ってもらえませんか」
事情に気づいた店員さんはすぐにカウンターへ向かい、二人で残りの包装を進めました。
ほどなく三つの箱が包み終わると、男性はそれを受け取りました。
そして店員さんに聞こえるほど大きく舌打ちをして、そのまま出口へ向かって歩き始めたのです。
出口の手前で、男性の足が急に速くなった
そのときでした。
少し離れた場所にいた年配の男性が、カウンターの店員さんへ聞こえるように声をかけました。
「大変だったね。塩でもまいておきな」
その声は、まだ出口の手前にいた男性にも十分届く大きさでした。
男性は一度も振り返りませんでした。
ただ、それまでゆっくり歩いていた足取りが急に速くなり、そのまま駆け足で自動ドアの向こうへ出ていきました。
誰かが追いかけたわけでも、さらに何か言ったわけでもありません。
店員さんは少し赤い顔のまま、「ありがとうございます」と年配の男性に頭を下げました。男性は軽く手を上げると、そのまま自分の買い物へ戻っていきました。
私も、抜けてしまったレジの列の最後尾へ並び直そうとしました。
すると、さっき私の前に並んでいた人が振り返りました。
「前に戻っていいですよ。店員さん呼びに行ってたんでしょう」
私が戸惑っていると、その人は続けました。
「あの店員さんも助かったと思いますよ」
「ありがとうございます」
そう答えて初めて、自分の心臓がまだ少し速く打っていることに気づきました。
会計を終え、私も買っていたそうめんの細長い箱を袋に入れて店を出ました。さっきの男性の姿は、もうどこにもありませんでした。
あの朝、誰か一人が派手に男性を言い負かしたわけではありません。私は店員さんを呼び、年配の男性は一言声をかけ、列にいた人は私の順番を戻してくれました。
ほんの小さな行動ばかりでしたが、今でもあのサービスカウンターの前を通ると、そのときのことを思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














