「最近の若いのは、すぐそう言うんだよな」混んだ地下鉄で責められた女性。だが、張りつめた車内が変わった瞬間
満員の地下鉄で聞こえた強い声
去年の春のことです。夕方の地下鉄は帰宅する人でぎっしりで、僕は二人がけの席のすぐ横に立ち、つり革につかまっていました。
窓側には20代くらいの女性、通路側には眼鏡をかけた会社員の男性が座っていました。
しばらくすると、女性の正面に立っていたスーツ姿の男性が、突然声をかけました。
「そこ、譲るのが普通だろ。若いんだから」
女性は驚いたように顔を上げ、それから小さな声で答えました。
「すみません、体調が悪くて…」
「こっちは一日働いて疲れてるんだよ」
男性の声がさらに大きくなります。
女性はうつむき、かばんの持ち手を握ったまま、もう一度言いました。
「すみません、本当に体調が悪くて…」
「最近の若いのは、すぐそう言うんだよな」
僕は黙って聞きながら、女性が乗ってきたときの様子を思い出していました。
ドアのそばの手すりにもたれ、何度も深く息をついていたのです。席が空くと、ほっとしたように腰を下ろしていました。
隣に座っていた男性が口を開いた
そのとき、女性の隣に座っていた会社員の男性が顔を上げました。
「この方、さっきから具合が悪そうでしたよ。無理に立たせないほうがいいと思います」
落ち着いた声でした。
僕も思わず続けました。
「僕も見てました。乗ってきたときから、かなりつらそうでしたよ」
スーツ姿の男性が、こちらを振り向きます。
すると近くに立っていた大学生くらいの女性も、心配そうに座っている女性へ声をかけました。
「お水、よかったら飲みますか?」
「ありがとうございます…」
それまで張りつめていた車内の空気が、少しだけ変わったように感じました。
スーツ姿の男性は周囲を見回したあと、それ以上は何も言いませんでした。そして次の駅に着くと、人の間を抜けて別の車両へ移っていきました。
女性は座ったまま、会社員の男性と僕に「ありがとうございます」と小さく頭を下げました。
やがて女性が降りる駅に着き、席を立つと、隣に座っていた会社員の男性が声をかけました。
「気をつけてくださいね」
女性はもう一度頭を下げ、そのままホームへ降りていきました。
翌日、職場の後輩にこの出来事を話すと、驚いた顔で言われました。
「体調が悪いって言ってるのに、まだ言われたんですか」
「うん。でも、隣の人が声をかけたら、僕も言いやすくなったんだよね」
最初に誰か一人が声を上げることで、その場にいた人も動きやすくなることがある。あの日の車内で、それを実感しました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














