「あの、その枝って、うちの木ですよね?」5年間、隣の家の枝を切り続けた僕。様子を見ていた、隣人の息子さんが知らなかったこと
5年続いた秋の枝切り
秋の土曜日になると、僕は物置から脚立と剪定バサミを出していた。
左隣の庭から塀を越えて伸びてくる枝を、うちの側に出た分だけ切るためだ。
気づけば、もう5年になる。
隣に住んでいるのは、80代くらいのおじいさんだ。
5年ほど前から庭木に手を入れなくなり、秋になるとうちの庭まで落ち葉が大量に飛んでくるようになった。
掃いても翌朝にはまた積もっている。物置の横には、落ち葉を詰めた袋が毎年七つも八つも並んだ。
塀越しに2度お願いしたこともある。しかし返ってきたのは、どちらも同じような言葉だった。
「もう年だから、木を切るのはきついんだよ」
事情は分かる。それでも、枝をそのままにしておくわけにもいかなかった。
「お父さん、今年も切るの?」
「うん。雨どいが詰まると困るからな」
娘に答え、僕は脚立に足をかけた。
息子さんが見た落ち葉の袋
その日、枝を三本ほど落としたところで、塀の向こうから声をかけられた。
立っていたのは、しばらく顔を見ていなかったおじいさんの息子さんだった。
「こんにちは。あの、その枝って、うちの木ですよね?」
「はい。こっちに出てきた分だけです。毎年、僕が切っているんです」
息子さんは驚いた顔をした。
「毎年…ですか?」
「もう5年くらいですね。落ち葉のことも、お父さんには何度かお話ししていて」
僕が物置の横を示すと、息子さんは並んでいる落ち葉の袋に目を向けた。そして、家にいるおじいさんを呼んだ。
「父さん、お隣さんがずっと切ってくれてたんだって。自分でできないなら、今度から僕が業者さんを頼むよ」
縁側に出てきたおじいさんは、しばらく黙ったあと、小さな声で言った。
「……すまなかったね」
「業者さんにお願いしてもらえるなら、助かります」
向かいの家で車を洗っていたご主人も、そのやり取りに気づいたようで、こちらを見て一度うなずいた。
翌週には業者さんが入り、塀を越えていた枝はきれいに切りそろえられた。夕方には息子さんが菓子折りを持ってうちを訪ねてきた。
「気づくのが遅くなって、すみませんでした。来年からも業者さんに頼んでおきます」
「ありがとうございます。本当に助かります」
あの日を最後に、その秋は脚立も剪定バサミも物置から出さずに済んだ。
後日、おじいさんが縁側から先に声をかけてきた。
「来年の秋も、業者さんに頼んであるそうだよ」
短くなった枝先を見上げながら、ようやく毎年の枝切りから解放されたのだと実感した。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














