「15人も乗せて、説明の1つもないのか」案内中に眠っていた男性。だが、旅館の夕食で女性から言われた一言
案内を聞いていなかった男性からの苦情
旅行会社の社員として、1泊2日のバス旅行に添乗したときのことです。
15人のお客様を乗せたバスが出発して、1時間ほどたったころ。後ろの席から突然、大きな声が聞こえてきました。
「おい、15人も乗せて、説明の1つもないのか!」
声の主は、60代くらいの男性客でした。
私は出発してすぐ、マイクでその日の予定や休憩場所を案内していました。
しかし、そのとき男性は窓にもたれて眠っていたのです。
「申し訳ありません。もう一度ご案内しますね」
私は気持ちを落ち着かせ、同じ内容を最初から説明し直しました。
窓口で申し込みを受けたときは、にこやかだった男性。
それだけに、突然の剣幕に戸惑いました。
その後も、バスが休憩で止まるたびに、男性は私を手招きしました。
「段取りが悪いんだよ。客の面倒はちゃんと見てくれないと困るだろ」
対応に困っていると、そのたびに運転手が笑顔で間に入ってくれ、男性は席に戻りました。
しかし、旅館に着けば運転手は別行動です。夕食の席では、私一人でお客様に対応することになります。
夕食の席で、女性が男性に伝えた一言
旅館の宴会場にはお膳が並び、浴衣姿のお客様が向かい合って座っていました。
私は制服のまま部屋の隅に立ち、全体の様子を見ていました。
中央あたりに座ったあの男性は、お酒が進むにつれて声も大きくなっていきました。
やがて、私に向かっておちょこを突き出してきたのです。
「おい、ちょっとこっち来て酒ついでくれよ。ついでに歌も一曲くらい歌ってみせろよ」
突然の要求に、私は言葉が出ませんでした。
添乗員の仕事は、お客様全員が安心して旅行できるようにお手伝いすることです。
お酌や歌まで求められても、どう断ればいいのか分からず、立ち尽くしてしまいました。
すると、男性の向かいに座っていた70代くらいの女性が、箸を置いて口を開きました。
「ちょっと、それは違うんじゃないですか。添乗員さんは私たちみんなのお世話をしてくださってるんですよ。お酌や歌まで頼むのはおかしいでしょう」
男性が女性のほうを向くと、女性は続けました。
「それに、バスでもちゃんと案内がありましたよ。私は聞いていました。明日は起きて聞いてみたらどうですか」
その言葉に、周りの席から拍手が起きました。
奥の席にいたお客様も、私に向かって手を振りました。
「添乗員さんも、座ってごはん食べなさいよ」
「ありがとうございます。あとでいただきますね」
そう答えると、張り詰めていた気持ちが少し楽になりました。
男性は周囲を見回すと、突き出していたおちょこをゆっくり下ろしました。そして、それ以上何も言わず、自分でお酒をつぎ始めました。
翌日のバスでは、男性は眠らずに起きていました。私が案内をすると、何度かうなずいていました。
そして、解散場所でバスを降りるとき、男性が私の横で足を止めたのです。
「昨日は酒が過ぎたな。…世話になったよ」
私は男性に頭を下げました。
男性が歩いていったあと、あの女性がこちらを見て、にこりと笑いかけてくれました。
あの夕食の席で声をかけてもらえたことが、今でも心に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














