「本当に10分で来た」土砂降りの山寺で震えて待った私→タクシー運転手を尊敬したワケ
土砂降りの山道を引き返す
60代の私は、妻と山の中腹にある古いお寺へお参りに出かけました。帰りはふもとのバス停まで歩くつもりでしたが、山門を出たとたん、空が抜けたような土砂降りになりました。
「地図だと一本道だし、30分もかからないはずだよ」
「本当に大丈夫?」
「たぶん大丈夫。行ってみよう」
傘をさして、ぬかるんだ山道を下りはじめました。
ところが30分ほど歩いてもバス停は見えません。それどころか、道はだんだん細くなっていきました。
やがて、雨にぬれたイノシシ注意の看板が目に入りました。
「ねえ、この道で合ってるの?」
私も立ち止まり、もう一度地図を確認しました。
「……違う。どこかで曲がる場所を間違えたみたいだ」
引き返すしかありませんでした。
今まで下ってきた坂を、今度は2人で上ります。雨で足元は滑りやすく、草むらが揺れるたびに思わず身構えました。
手足も冷えきり、妻は私の腕につかまりながら、黙って一歩ずつ坂を上っていました。
坂の下に見えたライトの光
ようやくお寺の入口の石段の下まで戻り、私は携帯電話でタクシーを呼びました。
電話口では、「10分ほどで着きます」と言われました。
電話を切ると、ずぶぬれの妻が肩をすぼめています。
「10分って言ってたけど……雨の山道だぞ。そんなに早く来られるのかな」
「そうよね。道も細いし」
「しばらく待つつもりでいよう」
寒さで歯がかちかち鳴りました。2人で肩を寄せながら坂の下を見つめていると、本当に10分ほどたったころ、木立の向こうにライトが見えました。
「あなた、あれじゃない?」
光は少しずつ近づき、やがて一台のタクシーが坂を上ってきました。細いカーブが続く道でしたが、迷う様子もなく私たちの前までやってきて、ぴたりと止まります。
運転席の窓が下がりました。
「お待たせしました。この道、慣れてますんで」
運転手は何でもないことのように笑いました。
私と妻は顔を見合わせ、急いで後部座席に乗り込みました。おかげで2人とも、けがをすることなく無事にふもとまで帰ることができました。
山を下る途中、私は何度も運転手の背中を見ていました。さっきまで私たちが心細い思いをしていた山道を、慣れた様子で走っていく姿が頼もしく見えたのです。
すると妻が、小さく笑いました。
「あなた、さっきから運転手さんばかり見てるわね」
言われて初めて、自分がずっと尊敬のまなざしを向けていたことに気づきました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














