「え、玄関ではみんなそうするでしょ」扉を必ず内側から3回叩く母。何年も一緒に暮らした母の癖に納得した理由
初めて見た、玄関での母の癖
20代の私が、まだ実家で暮らしていたころの話です。
家のチャイムが鳴ると、玄関へ出るのはたいてい50代の母でした。
私は自分の部屋や居間にいることが多く、母が荷物を受け取るところをわざわざ見に行ったことはありませんでした。
その日の昼、居間でテレビを見ているとチャイムが鳴りました。
ちょうど注文していた本が届く日だったので、私は立ち上がりました。
すると台所から母が出てきます。
「いいわよ。お母さんが出るから」
エプロン姿のまま玄関へ向かう母のあとを、私は本を早く受け取りたくてついて行きました。
ところが、扉の前に立った母はすぐには開けません。
片手をこぶしにすると、扉を内側から「コンコンコン」と軽く叩いたのです。
「はーい、今開けまーす」
そう声をかけてから、ようやく扉を開けました。
母は配達の人から箱を受け取り、頭を下げて扉を閉めます。その後ろで、私は笑いそうになるのを必死にこらえていました。
「みんなそうするでしょ」と真顔の母
「ねえ、今のなに?」
箱を抱えた母が、不思議そうに振り返ります。
「なにが?」
「扉、叩いてたよね。中から」
すると母は、当たり前のように答えました。
「え、玄関ではみんなそうするでしょ」
私はとうとう吹き出してしまいました。
何年も同じ家で暮らしてきたのに、母が毎回そんなことをしていたとは知りませんでした。
「なんで叩くの?」
笑いながら聞くと、母は真顔のまま言います。
「だって急に開いたら、外の人がびっくりするじゃない。先に知らせてるの」
なるほど。独特ではありますが、母なりの気遣いだったようです。理由を聞くと、少しだけ納得してしまいました。
夕食のとき、父にもその話をしました。
「お母さん、玄関開ける前に扉を叩くの知ってた?」
父は驚く様子もなく答えました。
「知ってるよ。30年、ずっとだ」
「なんで教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったからな」
隣では母が、何がおかしいのか分からないという顔で、みそ汁をすすっていました。
それから数年後、私はひとり暮らしを始めました。
先週の昼、部屋のチャイムが鳴り、玄関へ向かったときのことです。
扉を開けようとした瞬間、ふと自分の手を見ると、片方がこぶしになっていました。そのまま扉を叩きそうになっていたのです。
扉の向こうから、配達の人の声がしました。
「お届けものでーす」
私はこぶしをそっと下ろしました。
あんなに笑った母の癖が、いつの間にか自分にも移りかけていたことがおかしくて、ひとりで笑いながら扉を開けました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














