「うちの場所よ、どかして!」私の駐輪区画を奪う古株の奥様。だが、私が貼りかけた1枚のシールで笑顔が消えた
屋根の下の12番
駐輪場の12番に停めた私を、古株の大西さんが責めました
マンションに越して、ひと月。駐輪場の12番がうちの区画ですが、たいてい黒い自転車が停まっていて、誰かの間違いだろうと、屋根のない端に置いていました。
ある朝、黒い自転車が出ていた12番に停めると、黒い自転車を押した年配の女性が戻ってきました。小柄な彼女には大きすぎる自転車です。
「うちの場所よ、どかして!」
402号室の住人です、ここに20年住んでるの、と胸を張ります。
「12番は、うちの番号です」
前の住人は空けてくれたと、女性は笑顔で言いました
女性は、にこやかに首を振りました。
「前の子は、快く空けてくれたわよ」
話はついていた、新しい人が合わせるものよ、と。前の住人の顔も知らない私には、確かめようがありません。
「…そうなんですか」
それ以上は何も言えず、自転車を端へ戻しました。
停めた自転車を、女性に端へ動かされました
管理人さんは名簿を見て、12番は305号室の区画です、と認めてくれました。
ただ、住人同士の譲り合いには口を出せないと。
黒い自転車が出ていた夕方、私は12番に停めました。
翌朝、雨の上がった駐輪場で、私の自転車は屋根のない端に動かされ、サドルはびしょ濡れでした。
サドルを拭いていると、そこへ女性が通りかかりました。
邪魔だから寄せたわ、と悪びれもしません。
女性は笑いました。
「管理人さんは、何も知らないのよ」
春に来たばかりの人だもの、と。
「…はい」
土曜の朝の駐輪場
届いた登録シールと同じ番号が、黒い自転車にありました
土曜の朝、入居時に申し込んだ自転車の登録シールが届きました。
白いシールに『305-12』。部屋と区画の番号です。
自分の自転車に貼りかけて、私は手を止めました。
12番の黒い自転車の泥よけに、色あせた同じシール。番号も『305-12』です。
そこへ、買い物袋を提げた女性がやってきました。
「まだ何か用?」
「私のと同じ、305の12番」
泥よけを指さすと、女性の笑顔が、すっと消えました。
前に305号室にいたのは息子さんだと、私は気づきました
女性は袋を置き、早口になりました。
「む、息子のお古よ!」
春まで305号室にいた息子さんが、置いていった自転車だと言うのです。
「前の子って、息子さんですね」
快く空けてくれた前の住人とは、女性の息子さん。越したあとも空いた区画を使い続け、何も知らない私に譲らせていたのです。
『うちの場所』は、隣の13番にちゃんとありました
女性は目を伏せ、黒い自転車を引き出しました。
「…すぐ、どかすわ」
隣の13番には、ご主人の赤い自転車。シールは『402-13』。
「13番ですよね」
女性は小さくうなずきました。黒い自転車は翌週、息子さんの家へ送られました。
女性は今、ご主人の赤い自転車を13番から出していきます。
私と目を合わせないように。屋根の下の12番で、私の自転車はもう雨に濡れません。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














