あなたは長男の嫁なんだから
私は沙織（さおり）です。
夫の 誠治（せいじ）は長男で、私たちは義母の登美子（とみこ）さんの近くに住んでいました。
登美子さんは、「長男の嫁がすべてを担うべき」という考えの持ち主でした。
義母の送迎や病院の付き添い、食事の世話をさせられ、私の仕事や子育ての時間は削られていきました。
そのたびに、義母が必ず言う心ない一言がありました。
「沙織さんが介護するのが当たり前でしょ？ あなたは長男の嫁なんだから」
私は深く傷つきましたが、夫の誠治は、私が受ける理不尽な要求から私を守ってくれることはなく、私は、義母の介護に支配されていました。
「遺産分割通知」の中身は
そんなある日、優しかった義父の雅夫（まさお）さんが急死しました。
そして、一週間後、私の自宅に弁護士事務所から「遺産分割通知」が届いたのです。
義父は生前に親族間の争いを避けるため、すでに財産の一部を分割し、名義変更を済ませていました。
その遺言の内容は、私にとって静かな逆襲の合図となりました。
義父の所有していたアパートの土地と建物は、誠治の妹たちと私に、公平に分配されていました。
しかし、登美子さんと誠治の名義は、ほとんど含まれていなかったのです。
私に割り当てられた財産には、義父からの直筆のメモが添えられていました。
「沙織さんへ。君の優しさを、誰もが『当たり前』にしてはいけない。これは、君の努力と時間に支払われるべき対価です」
この通知が登美子さんに届いた後、彼女の態度は一変しました。
彼女は、私に財産が渡った事実と、義父の明確な意思表示に大きな衝撃を受けたようでした。
彼女から電話がかかってきたとき、私は冷静に、はっきりと伝えました。
「義母様。これまでの介護は、当たり前ではありませんでした。これからは、対価に見合った範囲でしかお手伝いできません。ご自分の生活は、ご自分で管理なさってくださいね」
義父がくれた「対価」という武器で、長年の鎖を断ち切ったのです。
私は、義父の優しさによって、自分の人生を取り戻すことができたのです。
※本作に登場する手続きや書面名称などは、物語上の演出です。実際の制度や法的手続きとは異なる場合があります。
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