本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
響き渡る「閉」ボタンの連打
朝の通勤ラッシュ、オフィスビルのエレベーターというのは、ただでさえ殺伐とした空気が流れる場所ですよね。
私が勤める会社はビルの高層階にあるのですが、そこで起きた、ある背筋の凍るような出来事をお話しします。
その日、私はたまたま同じ部署の男性社員と二人きりでエレベーターに乗り合わせました。
彼は仕事は早いのですが、とにかくせっかちで有名。
「時は金なり」を履き違えているようなタイプで、常に貧乏ゆすりをしているような人でした。
私たちが乗り込むやいなや、彼は親指の腹が白くなるほどの勢いで「閉」ボタンを連打し始めました。
「カカカカッ!」
静かな箱の中に、乾いた音が響き渡ります。「チッ、おっせぇな」と小さな舌打ちまで聞こえてきて、私は居心地の悪さを感じていました。
扉が閉まりかけた、その瞬間です。
ホールの向こうから、誰かが急いでこちらへ向かってくる気配がしました。
「すみません、乗ります!」
そう声が聞こえたはずなのに、彼はその声を無視するように、さらに激しく「閉」ボタンを押し込んだのです。
「無理やり入ってくんじゃねーよ……」
彼がそう吐き捨てた瞬間、閉まりかけた扉が、駆け込んできた男性の肩に「ドンッ!」と鈍い音を立ててぶつかりました。センサーが反応し、扉が再び開きます。
「あーあ、最悪」
彼は悪びれもせず、睨みつけるように入ってきた人物を見上げました。
顔面蒼白の沈黙
しかし、次の瞬間、彼の顔からスッと血の気が引いていくのが分かりました。
そこに立っていたのは、私たちの会社の役員の中で最も恐れられている上司だったのです。
眉間に深い皺を寄せ、扉に挟まれた右肩をさすりながら、上司は静かに彼を見下ろしました。
「……随分と、急いでいるようだな」
低く、重みのある声でした。怒鳴られたほうがマシだったかもしれません。
彼の手は震え、さっきまで威勢よく連打していた指は行き場を失って空を彷徨っています。
「あ、いえ、その……」と言い訳をしようとしますが、声が出ていません。
目的の階に着くまでの数十秒間、エレベーター内は静寂に包まれました。私はただただ気配を消し、到着を願うばかり。
チン、と到着音が鳴り響いた時の開放感と言ったらありません。
その後、彼がどうなったかは詳しく知りませんが、次の人事異動で彼の姿を見かけなくなったことだけは確かです。
たった数秒を惜しんだ代償は、あまりにも大きかったようですね。
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