「よかったらここ、座ってください」年配者同士での席の譲り合い。だが、突如若者が譲り合っていた席に座った結果
微笑ましい譲り合い
買い物帰りの午後、電車に揺られていた時のことです。
両手に提げたパンパンのレジ袋。
重さに耐えながらも運よく座席を確保でき、私はホッと胸をなでおろしていました。
「ふぅ……。今日は卵も安かったし、いい買い物ができたわ」
膝の上の荷物を整えていると、次の駅で一人の女性が乗車。
背中の少し丸まった、上品で可愛らしいおばあさまです。
手すりにつかまる手が少し震えているのを見て、私は迷わず腰を浮かせました。
「あの、よかったらここ、座ってください。お荷物お持ちしましょうか?」
すると、その方はパッと顔を輝かせ、恐縮したように手を振ります。
「まあ!とんでもない。あなたこそ、そんなに大きな袋を抱えて……。私はすぐに降りますから、どうぞ座っていてくださいな」
「いえいえ、私はまだ足腰はピンピンしています。さあ、どうぞ!」
私が笑顔で促すと、隣に座っていた別のおばあさままでもが、スッと立ち上がりました。
「それなら、私がこちらの方に譲りますわ。私はさっきからずっと座っていましたから。あなた、せっかくの親切ですもの、座りなさいな」
なんと、ここでおばあさま同士の「譲り合いバトル」が勃発。
「あら、そんな!あなただってお疲れでしょうに」
「いいのよ。ほら、あなたが座らないと、このお姉さんも座りにくいでしょう?」
「そうですよ、お二人とも本当に優しいんですねぇ」
車内を包み込む、春の陽だまりのような温かい空気。
三人で「いえいえ」「どうぞどうぞ」と笑い合い、まさに日本が誇る「譲り合いの精神」が体現された、最高にほっこりする瞬間。
若者の愚行
「あ、ラッキー」
その一瞬の隙をつく、冷ややかな声。
音もなく滑り込んできたのは、イヤホン姿の若者でした。まさに獲物を狙うハヤブサのようなスピード。
一瞬、時が止まりました。
腰を浮かせたまま固まるおばあさまと、口を開けたままフリーズする隣の方。
私はというと、差し出した手が空を切った状態で、若者の頭頂部を凝視。
若者はスマホの画面に夢中で、私たちのことなど一切視界に入っていない様子。
あまりの傍若無人ぶりに、私の中で「プツン」と何かが弾ける音がしました。
「……ちょっと、お兄さん」
私の声は、自分でも驚くほど低く、ドスが効いていました。
若者はイヤホンを外さず、面倒くさそうに片眉を上げます。
「あ?何すか?」
「何すか、じゃないわよ!今、このおばあさまたちが、一生懸命譲り合ってたのが見えなかったの!?あんたの目は節穴? それとも心の感度がバグってるの!?」
私の剣幕に、若者は一瞬ビクッと肩を震わせます。
「いや、空いてたから座っただけだし……」
「空いてたんじゃないの! 『空けてた』のよ!そこをあんたが土足で踏みにじってどうすんのよ!立ちなさい、今すぐ!」
私が指をさして一喝すると、車内中の視線が若者に突き刺さりました。
若者は顔を真っ赤にして、「チッ、うるせーな……」と毒づきながら、逃げるように隣の車両へと消えていきました。
静まり返る車内。
ハッと我に返り、おばあさまたちを見て顔を赤らめる私。
「すみません、お見苦しいところを……。つい、カッとなってしまって……」
すると、座るはずだったおばあさまが、目を丸くした後でコロコロと笑い出しました。
「いいえぇ。あなた、とっても格好よかったわよ!」
隣のおばあさまも、大きく頷いています。
「本当に。スカッとしたわ。ねぇ、これ、よかったら食べて。喉にいい飴なのよ」
差し出されたのは、オレンジ色の包み紙の飴。
三人で同時に飴を口に放り込むと、甘酸っぱさと共に、また少しだけ温かい空気が戻ってきました。
「飴、美味しいですね」
「本当ね。今日は色んな意味で、いい日になったわ」
立ち上がった二人の勇姿と、飴玉の甘さ。
世の中、マナーの悪い人もいるけれど、それ以上に強い「優しさ」と「お節介」があれば、案外捨てたもんじゃない。
そんなことを思いながら、私は買い物袋を握り直し、おばあさまたちと一緒に、電車の揺れに身を任せたのでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














