「動きもとろいし、こんなやばい人初めて見た」笑顔で接客を続けた私。だが、母親を注意した娘さんが会計後に戻ってきた理由
笑顔のまま返した同じ言葉
その日のランチタイムは人手が少なく、私は厨房の受け渡し口とテーブルのあいだを何度も行き来していた。
受け持っていた奥の席には、年配の女性と、その娘さん夫婦が座っていた。
席に着いたときから、年配の女性は腕を組み、店内を厳しい表情で見回していた。
娘さんがメニューを差し出しても、ほとんど目を向けない。
「お飲み物は何になさいますか」
「お水でいいわ。早くしてちょうだい」
私は「かしこまりました」と答えて、その場を離れた。
しばらくして料理を運ぶと、女性は眉間にしわを寄せ、私を見上げた。
「動きもとろいし、こんなやばい人初めて見た」
思いがけない言葉に、一瞬返事が詰まりそうになった。それでも、同じテーブルにいる娘さん夫婦まで気まずくさせたくはなかった。
「申し訳ありません。気をつけます」
そう答えて、小皿をそっとテーブルに置いた。
その後、サラダを運んだときにも、また同じような言葉を向けられた。
「申し訳ありません。気をつけます」
私はもう一度、同じように返した。
受け渡し口へ戻ると、厨房の社員が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫?代わろうか」
「大丈夫です。もう少しなので、私が対応します」
帰りぎわに戻ってきた娘さん
デザートの皿を下げに行ったとき、テーブルの空気が少し変わっていた。
娘さんが母親のほうへ体を向けていた。
「お母さん、さっきから言いすぎだよ」
「だって、あの人が…」
「ずっと笑顔で対応してくれてるじゃない。必要なものもちゃんと持ってきてくれてたよ」
ご主人も、「うん、俺もそう思うよ」と静かに続けた。
年配の女性は一度こちらを見たあと、目を伏せた。
膝の上のナプキンを何度かたたみ直し、それ以上は何も言わなかった。
会計が終わると、一度店を出た娘さんがひとりでホールへ戻ってきた。
私の前で足を止め、少し申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「母が失礼なことを言って、すみませんでした。私たちは気持ちよく食事できました」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、うれしいです」
娘さんはもう一度頭を下げ、入口へ戻っていった。
外で待っていた年配の女性は、娘さんと並んで歩き出す前に一度こちらを振り返った。そして、ほんの少しだけ頭を下げた。
休憩室に戻ると、ほかのパートさんが声をかけてくれた。
「大丈夫だった?ずいぶんきつい言い方だったね」
私は「うん、もう大丈夫」と笑い、まだ少し冷たかった手で温かい湯のみを包んだ。
あのとき娘さんがわざわざ戻ってきてくれたことが、張りつめていた気持ちを少しだけ軽くしてくれた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














