「犬の毛まで落ちていた、お前ら夫婦で嘘つきか」庭のゴミをめぐって怒鳴った男性。だが、犬を飼っていない僕たちの前で、家の奥から聞こえた声
謝りに行った妻が、震えて帰ってきた
その日、僕が居間で新聞を読んでいると、玄関のドアが静かに開いた。
買い物に出ていた妻が、上着も脱がずに立っている。見ると、手がかすかに震えていた。
「どうした。何かあったのか」
「1階の方に、謝りに行ってきたの」
妻は午前中にベランダを掃除したとき、大きな綿ぼこりが風に飛んだことが気になったという。
僕たちの部屋は4階で、1階には庭つきの部屋がある。もしゴミが落ちていたら申し訳ないと思い、僕に相談せず訪ねたらしい。
「庭にゴミが落ちてたって。それに、犬の毛まで混じってたって言われて…」
「でも、うちは犬なんて飼ってないだろう」
「そう言おうとしたんだけど、ずっと強い口調で言われて……」
実際に妻が掃除したときのほこりが1階の庭まで飛んだのかは、僕たちにも分からない。
ただ、犬を飼ったことがないのは確かだった。
「分かった。明日は僕も一緒に行くよ。二人でちゃんと話そう」
「夫婦で嘘つきか」と怒鳴られて
翌日、僕たちは二人で1階の部屋を訪ねた。
男性は玄関に出てくると、前日と同じように庭のゴミと犬の毛について話し始めた。
僕はできるだけ落ち着いて伝えた。
「うちは犬は飼っていません」
すると男性の声が急に大きくなった。
「お前ら夫婦で嘘つきか」
少し間を置いて、もう一度同じ言葉が廊下に響いた。
僕も腹は立ったが、ここで怒鳴り返しても話は進まない。
隣にいる妻を見ると、昨日ほどではないものの、緊張した表情をしていた。
すると妻が、静かに言った。
「少なくとも、犬の毛はうちのものではありません。うちには犬がいませんから」
男性が何か言い返そうとした、そのときだった。
家の奥から、犬の鳴き声がはっきり聞こえた。
男性は一瞬黙り、家の中を振り返った。僕たちも何も言わなかった。
ちょうど階段を下りてきた別の住人が、声に気づいたのかこちらを見た。男性はしばらく黙ったあと、そのままドアを閉めた。
「行こうか」
僕が言うと、妻は小さくうなずいた。
それきり、男性から庭のゴミや犬の毛について言われることはなかった。
今でも朝、エントランスで顔を合わせることがある。以前のように言葉を交わすことはないが、男性のほうから小さく頭を下げるようになった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














