「朝6時のピアノが少しつらくて」思い切って伝えた私。隣のお母さんが返した言葉
朝6時、目覚ましより先に聞こえる音
社会人になって二年目の春から、私は小さなアパートで一人暮らしをしています。仕事に間に合うよう、目覚ましをかけるのは朝6時半です。
ところが、いつのころからか、それより早く目が覚める日が続くようになりました。
朝6時になると、隣の一戸建てからピアノの音が聞こえてくるのです。窓を閉めていても、一音ずつ部屋まで届きます。そして30分ほどすると、決まったように止まりました。
あと少し眠れるはずなのに、一度目が覚めるとなかなか寝つけません。
週末、実家の母と電話をしていたとき、ついその話をしました。
「最近、毎朝6時からピアノが聞こえるんだ。30分くらい」
「毎朝?それはつらいね。お隣には言ったの?」
「ううん。普段あいさつする人だし、なんとなく言いづらくて」
「でも、向こうは聞こえてるって知らないのかもしれないよ」
母の言うことは分かります。それでも、いざ顔を合わせると切り出せないままでした。
月曜の朝も6時に目が覚め、眠気が残ったまま出勤しました。会社でも何度かまぶたが重くなり、昼休みには机に伏せて少し休みました。
思い切って伝えた朝
ある朝、アパートの階段を下りると、隣の家の門の前でお母さんが落ち葉を掃いていました。
今しかないと思い、私は声をかけました。
「あの、すみません。ちょっとお話してもいいですか」
お母さんが手を止め、こちらを見ました。
「朝のピアノなんですけど、うちの部屋までけっこう聞こえていて……。まだ寝ている時間なので、少しつらくて」
お母さんは驚いたような顔をしたあと、申し訳なさそうに眉を下げました。
「そうだったんですね。ごめんなさい。娘が学校へ行く前しか弾けなくて、朝なら大丈夫だと思っていました」
「いえ、私もずっと言えなくて。急にすみません」
「いえ、教えてもらってよかったです。何か考えますね」
責めるつもりはなかったものの、嫌な顔をされたらどうしようと緊張していました。思っていたより穏やかに話が終わり、私は少し肩の力が抜けました。
翌朝、聞こえなくなったピアノ
次の週、お母さんが私の部屋を訪ねてきました。
「朝はヘッドホンで練習できるようにしました。これからは音が聞こえないようにしますね」
「ありがとうございます。わざわざすみません」
「こちらこそ、気づかなくてごめんなさいね」
翌朝6時。いつもの時間になっても、ピアノの音は聞こえてきませんでした。
出勤するとき、隣の家の窓に目をやると、娘さんがヘッドホンをつけて鍵盤に向かっていました。指は動いているのに、外は静かなままです。
数か月後の日曜の午後、久しぶりに隣からピアノの音が聞こえてきました。
今度は眠る時間でも、出勤前でもありません。私は窓を開け、最後の一音まで聞いていました。
すると隣の窓も開き、お母さんがこちらに気づきました。
「聞こえちゃいました?」
「はい。すごくきれいでした」
そう答えると、お母さんはほっとしたように笑いました。その後ろから娘さんも顔をのぞかせ、照れたようにぺこりと頭を下げました。
ずっと我慢するしかないと思っていましたが、困っていることを伝えなければ、相手にも分からないことがあります。あの朝、思い切って声をかけてよかったと思っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














