「スイカ1玉300円とは、今日は運がいい」直売所で喜んだが財布を忘れた父。財布を届けた息子が、さらに気づいた問題
玄関で息子に言い残した、得意げなひと言
先月の日曜日、少し肌寒い朝のことです。私は薄い上着を羽織り、ときどき利用している農産物の直売所へ自転車で出かけようとしていました。
玄関で靴をはいていると、居間から息子が顔を出しました。
「父さん、どこ行くの?」
「直売所。夏の終わりは、いいものが安く出るんだよ」
そう言い残して店へ向かうと、期待したとおりでした。
真っ赤なトマトが袋いっぱいに入り、卵やとうもろこしも、ふだん買う店より安く並んでいます。
私はトマトを1袋、卵を2パック、とうもろこしを5本とかごへ入れました。
さらに出口近くの台を見ると、大きなスイカが並んでいます。値札を見て、思わず足が止まりました。
1玉300円。
私はいちばん重そうなスイカを両手で抱え、「これはいい買い物をした」とすっかり上機嫌でレジへ向かいました。
会計でポケットに手を入れた瞬間
レジ台の向こうには、エプロン姿の女性店員が立っていました。
私はかごを置き、その横にスイカをそっと下ろします。少し遅れて、後ろには2人の客が並びました。
「スイカ1玉300円とは、今日は運がいいなあ」
「今朝とれたものなんですよ。甘いと思いますよ」
そんなやり取りをしながら、店員さんが商品を一つずつレジに通していきます。
「お会計、1980円です」
私は上着のポケットに手を入れました。
ところが、財布がありません。
反対側のポケットにも、ズボンの後ろにもない。そこでようやく、玄関の棚に置かれた黒い財布が頭に浮かびました。
息子と話しながら靴をはいて、そのまま出てきてしまったのです。
さっきまで得意げにスイカの安さを話していた手前、急に恥ずかしくなりました。
「…すみません。財布、家に忘れてきました」
すると店員さんは、何事もなかったように笑いました。
「大丈夫ですよ。こちらで取っておきますから」
そして商品をレジ横へ寄せながら、小さな声で続けました。
「今日、そういう方、2人目です」
そのひと言に少し救われ、私は店のすみから息子へ電話をかけました。
「悪い。玄関の棚に財布があるから、直売所まで持ってきてくれないか」
「え、あの店まで?……分かったよ」
財布の次に忘れていたこと
30分後、息子が自転車でやってきました。
無事に会計をすませると、息子は大きなスイカを見たあと、店の外にとめてある私の自転車へ目を向けました。
その視線の先にあるのは、小さな前かごです。
「父さん、このスイカ、どうやって持って帰るつもりだったの?」
私は何も答えられませんでした。
財布を忘れたことばかり気にしていましたが、そもそもスイカをどう運ぶか、まったく考えていなかったのです。
帰りは息子の自転車のかごにスイカを載せ、私の自転車にはトマトや卵、とうもろこしを分けて積みました。
信号で止まったとき、息子が笑います。
「父さん、財布忘れたおかげで、スイカを無事に運べたね」
確かにそうかもしれません。300円のスイカに浮かれていた私は、返す言葉もなく笑うしかありませんでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














