「場所は決まってないですよね?」運動会で後ろの視界を遮った女性。だが、本部の放送を聞いてカメラを下ろした瞬間
目の前で立ち上がった保護者
よく晴れた日の、子どもの運動会でのことです。観覧場所は決まっておらず、保護者たちは競技に合わせて見やすい場所へ移動していました。
わが子の出番になり、私は前列でしゃがんでいる保護者たちの後ろに立ちました。
携帯電話を構えると、校庭がよく見えます。今日は走る姿をきれいに残せそうだと、楽しみにしていました。
ところが、競技が始まってしばらくしたころ、目の前の女性が突然立ち上がったのです。
女性は膝についた砂を払うと、大きなカメラを目の高さに構えました。私の携帯電話の画面は、その女性の背中でほとんどふさがってしまいました。
「あの、すみません」
声をかけても、女性は撮影を続けています。
「後ろから撮っているんですけど、見えなくなってしまって……」
すると女性は、少し面倒そうに振り返りました。
「でも、場所は決まってないですよね?」
「そうなんですけど、さっきまでしゃがんでいらしたので……」
「私も撮りたいんです。ほかの場所に移れませんか?」
女性はそう言うと、再び校庭へ向き直りました。背伸びをするようにして、カメラをさらに高く構えます。
私も周囲を見回しましたが、移れそうなすき間はありません。
わが子は今まさに走っています。このままでは肝心の姿が撮れません。私は携帯電話を握りしめ、焦るばかりでした。
本部から流れた放送と周囲の反応
そのときです。
本部のテントのスピーカーから、落ち着いた声が響きました。
「前の方はしゃがんで、後ろのご家族にも見えるようにご協力ください」
思わず前列を見ると、ほかの保護者たちはみんなしゃがんでいます。立っているのは、私の目の前の女性だけでした。
放送を聞いた周囲の保護者たちも振り返り、女性に視線が集まりました。
女性はカメラを構えたまま、動きを止めました。
すると、前列の端でしゃがんでいた男性が、女性を見上げて声をかけたのです。
「立ってるの、あなただけですよ」
女性は何か言いかけましたが、周囲を見回すと口を閉じました。
顔を赤くして、その場にゆっくりとしゃがみます。高く掲げていたカメラも、膝のあたりまで下ろしました。
すると、私の携帯電話の画面に、ようやく校庭の景色が戻ってきました。
ちょうどわが子がコーナーを回り、ゴールへ向かって走ってきます。
私は慌てて携帯電話を構え直し、ゴールに駆けこむ姿を最後まで撮影しました。
撮り終えてほっと息をつくと、隣に立っていた保護者が小さな声で言いました。
「放送、助かりましたね」
「本当ですね。もう撮れないかと思いました」
私はそう答えながら、もう一度携帯電話の画面を確認しました。
前にいた女性は、競技が終わるまでしゃがんだままでした。
誰もがわが子の姿を撮りたいのは同じです。それでも、自分の撮影に夢中になるあまり、後ろの人が見えなくなっていることには気づいてほしかったと思います。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














