「この120万円、合っていません」課長の計算ミスを指摘した若手の私。翌週、資料を見て顔を隠した理由
会議室でいちばん先に挙げた手
来月からの売上計画を話し合う会議は、昼休みのあとに始まりました。
長机を囲むのは社員8人ほど。部署でいちばん年下の私は、机の真ん中あたりに座っていました。
前には、ふだんから口数の少ない50代の課長が立っています。
配られた表には月ごとの売上が細かく並び、私は説明を聞きながら電卓で数字を確かめていました。
ところが、何度計算しても合いません。
上半期、下半期、年間の3か所で数字がずれ、年間ではちょうど120万円の差が出ていました。
「さっきから、何をそんなに計算してるの?」
隣の先輩に小声で聞かれ、私は資料を指さしました。
「合計が合わないんです。これ、課長の計算違いだと思います」
先輩が資料をのぞきこもうとしたとき、私は勢いのまま手を挙げました。
「課長、ここの合計、違っていると思います」
会議室がしんとします。課長が手元の資料に目を落とすなか、私は続けました。
「私の計算では、この120万円は合いません」
課長は資料を見たまま
「時間が多くないので、数字の部分はあとで細かく教えてください」
少し間を置いて次の議題へ進みました。
そのまま会議は予定どおりに終わりました。
「度胸あるね。あの空気でよく言えたね」
席に戻ると先輩にそう言われ、私は少し得意な気持ちになっていました。若手の自分が課長のミスを見つけた、と思っていたのです。
翌週の資料に増えていた小さな一文
夕方、正しい数字を確認しておこうと、私はもう一度資料を広げました。
今度は見出しを一つずつ確認しながら計算すると、合計はぴたりと合います。
「……あれ?」
よく見ると、売上の欄のすぐ隣に去年の売上の欄が並んでいました。
昼の私は、その去年の数字を足していたのです。しかも、ずれていると思った3か所すべてで同じ見間違いをしていました。
耳まで熱くなるのが分かりました。私はすぐ課長の席へ行き、頭を下げました。
「すみません。私の読み違いでした」
「そう」
課長は短くうなずくと、また手元の書類に目を戻しました。
そして翌週。課長が次の会議の資料を一部ずつ配っていきました。
受け取った資料をめくると、売上欄の端に、前にはなかった小さな注意書きがあります。
「※去年の欄と、まちがえないでください」
隣の先輩が身を乗り出し、その一文を人さし指でとんとんとたたきました。
「これ、誰のための一行だろうね」
私は何も言い返せず、資料を少し持ち上げて赤くなった顔を隠しました。その間も課長はいつもどおりの表情で、隣の席に資料を配っていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














