「結局、教える先生が悪いんじゃないの?」成績が上がらない娘を連れた母親が、体験授業の記録を見て言葉を失った瞬間
90分の体験授業で見えたこと
以前、私が塾で働いていたときの話です。
その日、無料の体験授業に来たのは、中学2年生の女の子でした。
私は女の子の斜め後ろで、問題に取り組む様子を90分間、ノートに書きとめていました。
女の子は分からないところがあると、自分から質問していました。
授業中に質問したのは3回。
それ以外はほとんど手を止めず、問題に向き合っていました。
授業が終わり、帰り支度をしているときです。女の子がぽつりと言いました。
「家では、点数のことしか聞かれないんです」
私はその言葉も、ノートの最後に書きとめました。
夕方、40代くらいの母親が面談にやって来ました。小さなテーブルを挟み、向かい側には50代の女性の塾長と私が座ります。女の子は教室で待っていました。
母親はかばんから前の塾の成績表を取り出すと、開口一番こう言いました。
「ここで3つ目なのよ。前の2つは、先生がはずれだったの」
前の塾は説明が速すぎて、その前の塾は先生がころころ替わったそうです。
「それは大変でしたね。今日のお嬢さんの様子ですが…」
私が話し始めると、母親は言葉をかぶせてきました。
「月5万円の家庭教師でもだめだったのよ。結局、教える先生が悪いんじゃないの?」
母親は成績表を指でたたきながら、さらに続けました。
「それに、あなた、ずいぶん若いわよね。本当に大丈夫なのかしら」
鼻で笑うような口調に、私は返す言葉が見つかりませんでした。
塾長が母親に見せた娘の記録
すると、隣にいた塾長が静かに口を開きました。
「お母さん、少しだけ今日の記録を見ていただけますか」
塾長は私の手元からノートを取り、母親が持ってきた成績表の隣に広げました。
「お嬢さん、90分間、本当によく頑張っていましたよ。分からないところも、自分から3回質問してくれました」
「質問くらいはするでしょう。それで点数が上がらなきゃ…」
「そうですね。成績も大切です。ただ、こちらも見てください」
塾長が指さしたのは、以前の塾の成績表にある宿題の提出欄でした。
そこには、毎回提出したことを示す丸が並んでいました。
「宿題もきちんと出していますね。少なくとも、勉強をしていないわけではないと思います」
母親は成績表に目を落とし、黙り込みました。
そして塾長は、ノートの最後の行を指さしました。
そこには、女の子が帰り際に話した「家では、点数のことしか聞かれないんです」という言葉が残っていました。
母親はその一行をじっと見つめていました。
塾長は少し間を置いてから、穏やかな声で続けました。
「以前の先生がどうだったのか、私たちには分かりません。でも、今日のお嬢さんは一生懸命でした。点数だけじゃなくて、頑張っているところも見てあげてほしいんです」
母親はすぐには答えませんでした。やがて成績表を二つに折り、静かにかばんへしまいました。
先ほどまで私を若いと笑っていた母親は、もう何も言いませんでした。
面談が終わり、私たちが教室に戻ると、女の子は問題集を閉じて母親を見上げました。
母親は娘の顔を見つめ、少しためらってから口を開きました。
「……今日、どうだった?」
その一言を聞いて、私は少しだけほっとしました。
すぐに何かが変わるわけではないでしょう。それでも、点数ではなく娘が過ごした時間について尋ねたことが、私には小さな変化に思えたのです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














