「余ったら持って帰ればいいじゃん」限定クロワッサンを15個取った父親。包もうとしたところ、係の人が声をかけた
名物のクロワッサンを15個も取った父親
1年ほど前、友人と温泉旅館に泊まったときのことです。
翌朝、朝食会場へ行くと、パンのコーナーには名物の焼きたてクロワッサンが並んでいました。
そばには「数に限りがございます」という札もあります。
私たちの隣のテーブルには、40代くらいの父親と母親、小学生の子ども2人の家族が座っていました。
友人とクロワッサンを取りに行くと、その父親が先にトングを持っていました。
ところが、取る量が尋常ではありません。
次から次へとトレーに載せ、気づけば15個ほどになっていたのです。
私が後ろで待っていると、父親はこちらに気づいて言いました。
「うちは4人なんで。これくらい食べますよ」
私は何も言えず、残っていた最後の1個を取りました。
席に戻ってしばらくすると、年配のご夫婦がパンのコーナーへやって来ました。
しかし、クロワッサンはもうありません。
「すみません、クロワッサンはもう終わりですか?」
ご夫婦が係の女性に尋ねると、申し訳なさそうな返事が聞こえてきました。
「すみません。本日ご用意した分は、もうなくなってしまって…」
「そうですか。残念ですね」
ご夫婦は少しがっかりした様子で席へ戻っていきました。
一方、隣のテーブルでは、父親が大量のクロワッサンを前に得意げに話していました。
「朝食代も払ってるんだからさ。限定なら、先に取った人のものでしょ」
母親が困ったように言います。
「でも、これ全部食べられるの?」
「余ったら持って帰ればいいじゃん」
あまりにあっさりした言い方に、私は驚きました。
友人も思わず父親のほうを見てしまったようです。
すると父親は、こちらの視線に気づきました。
「何か言いたいことでもあるんですか?」
「いえ…」
友人はそれ以上何も言わず、私たちも食事を続けました。
持ち帰ろうとした父親を止めた一言
やがて、その家族も食事を終えようとしていました。
ふと隣を見ると、父親のトレーには、手つかずのクロワッサンが8個も残っています。
すると父親は紙ナプキンを広げ、残ったクロワッサンを包み始めました。
そのまま足元のかばんに入れようとしたときです。
「お客様、申し訳ありません」
近くにいた係の女性が、父親に声をかけました。
「お料理のお持ち帰りは、ご遠慮いただいているんです」
父親は手を止め、不満そうに答えました。
「えっ、でも余っただけですよ。置いていったら捨てるんでしょ?」
係の女性は、落ち着いた声で返しました。
「お気持ちは分かるのですが、お持ち帰りはお断りしているんです」
それでも父親は納得できない様子でした。
すると係の女性は、残されたクロワッサンに目を向けて続けました。
「それに、今朝は召し上がれなかったお客様もいらっしゃいまして…」
その言葉に、父親は黙り込みました。
周囲の席からも何人かが視線を向けています。
少し離れた席では、先ほどクロワッサンを食べられなかったご夫婦も、こちらを見ていました。
父親は何か言いかけましたが、結局、言葉は出てきませんでした。
そのとき、上の子が父親の袖を引っ張りました。
「パパ、やっぱり取りすぎだよ……」
父親は子どもをちらりと見ると、包みかけた紙ナプキンをトレーに戻しました。
そして何も言わずに立ち上がり、母親と子どもたちも後に続きました。
テーブルには、結局食べられなかった8個のクロワッサンが残されていました。
係の女性が静かにトレーを下げる姿を見ながら、私は少し複雑な気持ちになりました。
せっかくの焼きたてクロワッサン。あのご夫婦にも食べてもらえたらよかったのに。
そう思わずにはいられない朝でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














