「業者を紹介しましょうか」と受付で10分近く話し続けた男性。だが、院長の言葉に黙った瞬間
カウンターに置かれた名刺
私が通う町の医院は評判がよく、いつも混んでいます。
受付を済ませたあと、待ち時間に近くへ出る人も珍しくありません。
ある平日の昼、待合室には10人ほどが座っていました。
60代の私は入り口に近い席にいて、受付カウンターが斜め前に見える位置にいました。
すると、受付の正面のいすにいた50代くらいの男性が立ち上がりました。私より先に来て、かなり待っていた人です。
「すみません。あと、どのくらいかかります?」
受付の女性は申し訳なさそうに答えました。
「今日は混み合っていまして、30分以上はかかりそうです」
男性は天井を見上げるようにして、大きく息を吐きました。
「今どき、待ってる人数くらいホームページで見られるところもあるでしょう。ここはやってないんですか?」
「申し訳ありません。今のところは行っておりません」
すると男性は名刺入れから1枚抜き、カウンターに置きました。
「業者を紹介しましょうか。名刺を1枚置いていきます」
10分近く続いた説明を止めた院長
それで話が終わるのかと思いましたが、男性はそのまま、導入費用や順番が近づいたときに知らせる仕組みについて話し始めました。
受付の女性が「はい」「そうですか」と返すたび、男性の説明は続きます。
途中で電話まで鳴りましたが、女性は困ったように受話器と男性を見比べていました。
「聞いてます?医院のためを思って言ってるんですよ」
男性の声は待合室にも響いています。
私も時計を見ながら、いつまで続くのだろうと思っていました。
10分近くたったころ、診察室のドアが開き、白衣の院長が出てきました。
男性の横まで来ると、カウンターの名刺に目を向けます。
「ご意見はありがとうございます」
男性は待っていたように院長へ顔を向けました。
「先生、ちょうどよかった。今、受付の方に説明してたんですよ」
すると院長は、落ち着いた声で返しました。
「お気持ちは分かりました。ただ、受付にも別の対応があります。続きは今日はここまでにして、まず業務に戻らせてください」
男性は何か言いかけましたが、周りを見て口を閉じました。
近くに座っていた男性が、小さな声で「ずっと待ってる人もいるからね」とつぶやきました。
院長は男性に向き直り、「お名前が呼ばれるまで、席でお待ちください」と伝えました。
男性はカウンターの名刺をかばんに戻すと、何も言わず、さっきまでとは違う端のいすに腰を下ろしました。
受付の女性はすぐに仕事へ戻り、次の患者の名前を呼びました。それから5分後、私の名前も呼ばれました。
診察室へ向かう途中、端の席を見ると、男性はかばんを抱えたまま静かに座っていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














