「3000円になります」安いうなぎを選んだつもりの父。食卓でひと口食べた私に娘が笑った理由
値札も見ずに手に取った、うなぎのパック
今年の夏の夕方、60代の私は、30代の娘とスーパーへうなぎを買いに行きました。
土用の丑の日が近く、ひさしぶりに帰ってきた娘が「父さんと一緒にうなぎ食べたいな」と言ったのがきっかけです。
売り場には、国産と外国産のかば焼きが並んでいました。
値段を見ると、その差は3倍ほどあります。
若いころから財布のひもが固い私は、売り場に着く前から安いほうを買うつもりでした。
「せっかくだし、国産にしない?」
娘がそう言いましたが、私はすぐに首を振りました。
「いや、安いので十分だよ。食べたって、そんなに違いは分からないだろ」
そう言いながら、私は手前にあったパックをひとつつかんで、かごへ入れました。値札はまったく確認していませんでした。
「高いのは、名前にもお金を払ってるようなもんだよ」
娘はかごの中をちらりと見ました。そして何か言いかけたようでしたが、そのまま黙りました。
私は気にも留めず、レジへ向かいました。
レジで聞こえた「3000円になります」
レジでは、20代くらいの女性店員が手ぎわよく商品を読み取っていました。
私は安いうなぎを選んだつもりで、浮いた分で明日の朝のパンでも買おうかと考えていました。
ところが、店員さんの口から聞こえてきたのは、思いもしない金額でした。
「3000円になります」
一瞬、聞き間違いかと思いました。
店員さんの手元にあるパックを見ると、ラベルには「国産」の文字。安いほうを取ったつもりが、私がつかんだのは高いほうだったのです。
「あの…」
取り消してもらおうとして、そこまで言いかけました。
けれど、ふと振り返ると、うしろには3人ほど客が並んでいます。横を見ると、娘も黙って私の顔を見ていました。
さっきまで「違いなんて分からない」と言い切っていた手前、急に恥ずかしくなりました。
「…はい」
結局、それ以上は何も言えず、そのまま財布からお札を出しました。
帰り道、娘は買い物袋を提げながら、何度も笑いをこらえていました。
「お父さん、『違いなんて分からない』って言ってたよね」
「まあ…たまにはいいだろ」
私がそう返すと、娘はとうとう声を出して笑いました。
ひと口食べた私を見て、娘が笑った
その夜、温めたうなぎを食卓に出しました。思えば、国産のうなぎを食べるのは初めてです。
ひと口食べたところで、思わず箸が止まりました。
皮は香ばしく、身はふっくらしています。これまで食べてきたうなぎとは、ずいぶん違って感じました。
そんな私を見て、娘がにやりとしました。
「どう?国産のお味は」
私は何も答えず、もうひと口食べました。
すると娘が、私の顔を見ながら笑います。
「お父さん、安いほうだったら、そんな顔してないよね」
返す言葉がありませんでした。
あれ以来、うなぎ売り場では値札をひとつずつ確認するようになりました。そして確認したうえで、今では迷わず高いほうを手に取っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














