「身軽だから楽勝です」ライブ帰りの私が、最寄り駅の改札を出て固まった理由
大きな荷物をロッカーに預けて
30代の私が、好きなアーティストのライブに遠征したときの話です。宿代をおさえるため、会場から電車で40分ほど離れたホテルを予約していました。
ライブ当日の昼、会場近くの駅に着くと、まずキャリーケースをコインロッカーに預けました。
大きなロッカーにケースを入れていると、隣では同じツアーのシャツを着た女性がボストンバッグを押しこんでいました。
目が合うと、女性が笑って言いました。
「大きいところ、空いててよかったですね」
「本当ですね。これでだいぶ楽です」
鍵をポケットにしまい、私は会場へ向かいました。
それまで引いていたキャリーケースがなくなると、驚くほど身軽です。
グッズの列に並ぶのも、会場まで歩くのも楽で、「先に預けて正解だったな」と何度も思いました。
ライブの余韻のままホテルへ
ライブが始まると、荷物のことなどすっかり頭から消えていました。
跳んで、歌って、終演するころには汗だく。それでも気分は最高で、余韻に浸りながら駅へ向かいました。
すると、昼にロッカーの前で会った女性と偶然また顔を合わせました。
「最高でしたね。ホテル、遠いんですか?」
「電車で40分くらいです。でも身軽だから楽勝です」
「じゃあ、お疲れさまでした」
女性は手を振ると、改札近くのロッカーのほうへ歩いていきました。
私はそのまま改札を通り、ホテルへ向かう電車に乗りました。
乗り換えも荷物がないので楽々です。頭の中ではライブで聴いた曲がずっと流れていて、私はすっかり上機嫌でした。
改札を出て、ようやく気づいた
夜遅く、ようやくホテルの最寄り駅に到着しました。
改札を出て、「あとはホテルまで行くだけ」と歩き出そうとした、そのときです。
ふと自分の両手を見て、足が止まりました。
何も持っていません。
「……え、待って」
着替えは?化粧品は?充電器は?
一瞬考えてから、私は慌ててポケットに手を入れました。指先に、固いものが当たります。
ロッカーの鍵でした。
「あっ…キャリーケース!」
全部、会場近くの駅に置いたままです。
そこでようやく、さっき女性がロッカーのほうへ歩いていった理由にも気づきました。あの人はちゃんと、自分の荷物を取りに戻っていたのです。
「そりゃ、身軽なはずだよね…」
自分で口にして、思わず笑ってしまいました。
私はそのまま向きを変え、来た道を電車で戻りました。
ロッカーの前までたどり着き、鍵を開けると、キャリーケースは昼に入れたままの姿でそこにありました。
取っ手を握りながら、私は小さくつぶやきました。
「お待たせ。今度こそ一緒に帰ろうね」
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














