「8000円も払うわけないでしょ」割れた花瓶を幼い息子のせいにする母親。しゃがんだ私が見つけた事実
花瓶が割れた金曜の午後
金曜の午後、店長が出かけ、店は私ひとりになりました
私は、駅前のインテリア雑貨店でパートをしています。
金曜の午後、出かける支度をした店長が言いました。
「銀行に行ってくるわね。」
「はい、お店は見ておきます。」
私は、入り口近くの白い台に飾ったガラスの花瓶に、白いユリを生け直していました。花瓶も売り物です。
花瓶の割れる音がして、母親が男の子を叱っていました
20分ほどして、レジにいた私の耳に、ガシャンと大きな音が届きました。
駆けつけると、花瓶は床で割れ、ユリが散らばっていました。5歳くらいの男の子が立ちすくみ、その横で母親が腕を組んで叱りつけています。
「もう!ユリを引っぱるからよ!」
「ぼく、さわってないもん。」
男の子はうつむいて、両手を握りしめ、小さな声で言いました。
足元にはガラスの破片が散らばっていたため、私はまず親子に安全な場所へ移動してもらいました。近くのお客様にも、破片に近づかないよう声をかけます。
母親は、自分は花瓶に一歩も近づいていないと言いました
「お怪我はありませんか」と声をかけると、母親は私に向き直りました。
「私は向こうの棚にいて、この子がユリを引っぱるのを見たの。」
母親は奥の棚をあごで示しました。
「一歩も近づいてないわ。」
「何にも触ってないわよ!」
母親は自分が花瓶に近づいていないことを繰り返し強調しました。一方、男の子は何も言わず、母親のそばに立っています。
店が悪いと言い張る母親
代金は払わないと迫られ、私は頭を下げるしかなくなりました
「恐れ入りますが、8000円のお品物でして……」
破損した商品について説明しようとすると、母親は私の言葉を遮るように声を張り上げました。
「8000円も払うわけないでしょ!」
子どもが引っぱっただけで倒れる所に置く店が悪い、払えと言うなら苦情を入れると、母親はまくし立てます。
店内のお客様が振り向きました。
「申し訳ございません。」
割れた瞬間を見ていない以上、誰が花瓶を倒したのかは分かりません。私はすぐに弁償を求めることもできず、ひとまず頭を下げました。
男の子の手はきれいで、母親の袖口に黄色い花粉がついていました
顔を上げると、男の子がまだ両手を握りしめていました。
私は男の子の前にしゃがみ、「ぼく、お手てを見せてくれる?」と声をかけました。
そっと開いた手のひらは、どこも汚れていません。
「この子の手は、きれいなままです。」
もちろん、手が汚れていないからといって、花に触れていないと断定できるわけではありません。ただ、母親の説明が本当なのか、少し気になりました。
「ほら、早く謝りなさい」
母親が右手の人さし指で男の子をさしました。その白いブラウスの袖口に、黄色い粉がこすれたようについています。
「袖口の黄色は、ユリの花粉です。」
ユリの花粉は、手や服につくとなかなか落ちません。先ほど生け直したユリは、まだおしべの先の花粉を取り除いていませんでした。
母親の袖口についた黄色い粉は、そのユリの花粉によく似ています。
それだけで花瓶を倒した人物を決めつけることはできません。しかし、花瓶に一歩も近づいていないという母親の説明には、疑問が残りました。
自分の言葉を返された母親は、袖口を押さえて口を閉じました
母親は、右手をさっと引っこめました。
「割れたあとに、拾っただけよ!」
「何にも触ってないとおっしゃいました。」
それに、音がしてすぐ駆けつけた私の前で、お客様はずっと腕を組んでいらっしゃいました。
そう続けると、母親は左手で袖口を押さえて口を閉じました。周りのお客様の目が、その袖口に集まります。
しばらく沈黙が続いたあと、母親はうつむき、ようやく事情を説明し始めました。
実は、飾られたユリの向きが気になり、自分で花に手を伸ばしたのだそうです。その際に花瓶に触れて倒してしまったものの、弁償を求められるのが嫌で、そばにいた息子のせいにしてしまったと認めました。
私は店長に電話で状況を説明し、破損した商品の扱いについて確認しました。そのうえで、母親にも弁償に応じてもらえるか改めて尋ねました。
母親が了承したため、「代金の8000円をお願いいたします」と伝えると、母親は黙って財布を出しました。
帰り際、私は男の子にそっと声をかけました。
「疑われて、いやだったね。」
男の子は小さくうなずき、少しだけ笑って、母親のあとを追っていきました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














