「ちょっとお菓子を食べるくらいいいでしょ」運動会の最前列でお菓子を広げていた家族。だが、園児の一言に父親の手が止まった瞬間
保護者席の最前列に広げられたお菓子
娘の保育園の運動会が、澄みきった青空の下で開かれました。
事前に配られたお便りには、保護者席でのお菓子などの飲食は禁止と書かれていました。
とくに園児から見える場所では控えるよう、注意書きもありました。
開会が近づいたころ、保護者席の最前列、その真ん中に広げられた大きなレジャーシートに、家族が集まってきました。
父親は腰を下ろすなり、お菓子の袋をいくつも取り出し、小学生や中学生くらいの子どもたちに渡し始めました。
子どもたちはお菓子を食べながら、携帯ゲームに夢中になっています。
後ろに座っていた保護者たちは、困ったように顔を見合わせていました。
すると、隣のお母さんが私にそっと耳打ちしました。
「ねえ、ここって飲食禁止でしたよね?」
「そうですよね。お便りにも書いてありましたし…」
私たちが小声で話していると、聞こえたのか、父親がこちらを振り返りました。
「何? うちはちゃんと場所取ってるんだから、ちょっとお菓子を食べるくらいいいでしょ」
思いがけず声をかけられ、私たちは一瞬言葉に詰まりました。
それでも隣のお母さんは、遠慮がちに伝えました。
「でも、園児たちから見えますよ」
父親は気にする様子もなく、次のお菓子の袋を開けました。
「別に誰の邪魔もしてないでしょ。ここ、保護者席なんだし」
そう言われると、それ以上は言い返せませんでした。
園児たちが一生懸命頑張る運動会なのに、どうして少しだけ我慢できないのだろう。私は釈然としない気持ちのまま、前のシートを見つめていました。
園児のつぶやきに止まった父親の手
しばらくすると、出番を待つ園児たちが園庭に並び始めました。
保護者席から少し離れた場所ですが、子どもたちの声は届く距離です。
そのとき、列の中にいた園児のひとりが、お菓子の袋に目をとめました。
「おかし、いいなあ」
ぽつりと聞こえたその声に、近くの園児たちもシートのほうを見始めました。
お菓子に手を伸ばしていた父親も、その視線に気づいたようです。
それまで動いていた手が止まり、園児たちのほうへ顔を向けました。
そこへ、エプロン姿の担任の先生がやってきました。
先生は父親のそばにしゃがみ、落ち着いた声で話しかけました。
「すみません。保護者席では飲食をご遠慮いただいているんです。園児たちも見ていますので、お菓子は園の外でお願いできますか?」
父親は少し戸惑った表情を浮かべました。
「いや、でも……そんなに騒いでるわけじゃないし」
そう言いかけて、もう一度園児たちのほうを見ました。
子どもたちの視線は、まだシートの上のお菓子に向いています。
先ほどまで「誰の邪魔もしていない」と言っていた父親も、それ以上は言葉を続けませんでした。
後ろの保護者席からも、小さな声が聞こえました。
「ほら、やっぱり見えてるじゃない……」
父親は気まずそうに目を伏せ、お菓子の袋の口を閉じました。
そして、そばの子どもたちに短く言いました。
「もう、しまっとけ」
子どもたちはお菓子とゲームをかばんに戻しました。
それを見届けると、先生は小さく会釈し、園児たちの列へ戻っていきました。
やがて音楽が鳴り、園児たちの元気な演技が始まりました。そのあとの娘のかけっこも、私は最後まで笑顔で見守ることができました。
大人がいくら言葉で説明しても伝わらなかったことが、園児の何気ない一言で伝わったように感じた運動会でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














