「先週は3回も残業してたよね」その3日とも休みだった先輩が、休憩室のドアを開けた夜
親切な先輩との、少し近い距離
30代になってから、僕は夜のスーパーで品出しのアルバイトを始めた。
右も左も分からない僕に、商品の場所や値札の見方を丁寧に教えてくれたのが、同じ時間帯に入ることの多い男性の先輩だった。
シフトが重なるうちに、仕事以外のことも話すようになった。ある日、先輩が何気なく聞いてきた。
「休みの日って、どこか出かけたりするの?」
「いや、ほとんど家にいますよ」
すると先輩は少し笑った。
「そうなんだ。日曜、駅の北側にいたよね。見かけたからさ」
「ああ…いましたね」
「俺も近くにいたんだよ」
その日の行き先は誰にも話していなかった。ただ、実際に見かけたのなら不思議ではない。僕は偶然だろうと思い、その場では気にしないことにした。
休みだった日のことまで知っていた
その週の終わり、閉店後の片づけをしていると、買い物かごを重ねていた先輩がふいに言った。
「先週、3回も残業してたよね」
「え、そうでしたっけ」
とぼけて返したが、先輩はもう一度、同じことを口にした。
「3回してたよね」
言われて数えてみると、確かに3回だった。
そこで、妙なことに気づいた。その3日とも、先輩は休みだったのだ。
どうして知っているのだろう。
ひとりになった休憩室で開いたドア
その夜、休憩室で上着を取っていると、大学生のアルバイトの男の子に声をかけられた。
「先輩に、何か言われてました?」
「先週3回も残業してたよねって」
「へえ……よく覚えてますね」
彼が帰ったあと、僕は休憩室の椅子にひとりで座った。缶コーヒーを半分ほど飲んだころ、不意にドアが開いた。
先輩だった。
「あ、いた。探したよ」
一瞬、身体がこわばった。
けれど先輩は、明日の搬入について伝えに来ただけだった。説明はいつもどおり丁寧で、話し終えると「じゃ、お疲れさま」と出ていった。
その後も、先輩から何かをされたわけではない。仕事では変わらず親切に教えてくれるし、僕も今も同じ店で働いている。
それでも、あの残業回数をどうして知っていたのかは分からないままだ。
休憩室のドアが開くたび、僕は今でも反射的に顔を上げる。
今夜、入ってきたのは別の人だった。それを確認してから、ようやく手の中の缶コーヒーを口へ運んだ。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














