「だからどきません!」運動会の最前列から動かない母親。だが、園長先生が穏やかに伝えた一言で変わった撮影エリアの空気
入れ替えの時間になっても動かない母親
2年ほど前、子どもが通う保育園の運動会でのことです。
よく晴れた園庭には、保護者用の撮影エリアが設けられていました。
そこは、わが子の学年の出番に合わせて保護者が入れ替わる決まりになっていました。
私の子どもの学年は次の出番です。
ビデオカメラを持って撮影エリアの後ろに並ぶと、最前列の真ん中に三脚を広げた母親がいました。
やがて、その母親の子どもの学年の演技が終わり、次の学年の子どもたちが入場してきました。
ところが、母親は三脚をたたもうとしません。
後ろで待っていた保護者の女性が、遠慮がちに声をかけました。
「あの、次の学年なので、そろそろ交代してもらえませんか?」
「まだうちの子が写るかもしれないから」
母親は振り向かずに答えました。
確かに、少しでも長くわが子を撮っていたい気持ちは分かります。ただ、後ろには自分の子どもの出番を待つ保護者が何人もいました。
それでも、母親が場所を空ける様子はありませんでした。
次の学年の競技が始まり、私も三脚の隙間からカメラを構えました。しかし、画面には母親の帽子が大きく入り、肝心の子どもたちがよく見えません。
「これじゃ、あんまり見えないね…」
「うちの子、もうすぐ出てくるのに」
周囲からも困った声が聞こえてきました。
母親は小さく舌打ちをしましたが、動こうとはしません。
とうとう、後ろにいた父親が身を乗り出しました。
「すみません。次の学年が始まっているので、交代してもらえませんか?」
すると母親は振り向き、強い口調で言いました。
「私は朝早くから並んで場所を取ったんです。だからどきません!」
その声に、周囲が静まり返りました。
私の子どもが走る順番も近づいています。このまま撮影できなかったらどうしようと、焦る気持ちが強くなりました。
園長先生が伝えた撮影エリアの決まり
そこへ、エプロンをつけた園長先生が小走りでやってきました。
園長先生は母親の横に立つと、落ち着いた声で話しかけました。
「お母さん、朝早くからありがとうございます」
母親は少し驚いた様子で園長先生を見ました。
「お子さんの学年では、前で撮影していただけます。でも、ここは学年ごとの交代なので、今は次の学年の方に譲ってくださいね」
園長先生は責めるような言い方をせず、撮影エリアの決まりをはっきりと伝えました。
母親が返事をしないでいると、最初に声をかけた保護者の女性がぽつりと言いました。
「うちも朝早くから並んで、ずっと後ろで待ってたんですけどね…」
母親は周囲を見回すと、頬を赤くしました。
「……分かりました」
そう小さく答えると、カメラを外し、三脚をたたみ始めました。少し手間取っていましたが、やがて道具をまとめ、人垣の後ろへ下がっていきました。
ようやく撮影エリアの前方が空き、待っていた保護者たちが静かに移動しました。
私もカメラを構え直すと、スタートラインに立っていたわが子が、こちらに向かって元気よく手を振ってくれました。
「がんばれ!」
思わず声をかけると、周囲からも子どもたちへの声援が上がりました。
振り返っても、先ほどの母親の姿はもう見えません。
わが子の姿をしっかり撮りたい気持ちは、きっと誰も同じです。だからこそ、お互いに場所を譲り合うことが大切なのだと感じた運動会でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














