「お願いしていい?」祖父の葬儀で全ての決めごとを担った私→最後まで聞こえてこなかった家族の一言の重さ
座ったままの父と兄弟
祖父の通夜の支度が始まる頃、実家の居間には10人ほどの親族がぎっしりと座っていた。
座布団の上で正座している父は喪主、その横で母がぼんやり遺影を眺めている。
兄と弟は、お茶を入れる気配もなく茶菓子に手を伸ばしていた。叔父叔母は線香の煙を見上げながら、世間話とも近況報告ともつかない声で言葉を交わしている。
そこへ、葬儀屋の担当者が打ち合わせ資料を持って入ってきた。お花、棺、香典返し、お返しの品。決めごとは細かく、どれもこの家のしきたりに関わる話だった。
担当者の目線が、いったん父のほうへ流れた。けれど父はじっと畳に視線を落としていて、何も応えない。
「お願いしていい?」
その声が、なぜか私のほうへ向けられていた。
父も、母も、兄弟も、ひとこと「俺がやる」とは言わなかった。私が頷いた瞬間、その場の責任は静かに孫娘の私だけに移った。
届かなかった「お疲れ様」の一言
そこから一日中、私は親族のあいだを行き来し続けた。叔父叔母にお花の種類を確認し、母には香典返しの予算を聞き、葬儀屋に戻って書類に書き込む。
「お茶、もうないんじゃない?」
誰かが小さく呟いた。私は車のキーを取り、近所のスーパーへ走った。お茶のペットボトルとお菓子を抱えて戻ってきても、玄関で「ありがとう」と言ってくれる人はいなかった。
打ち合わせが終わったのは、外がすっかり暗くなった頃だ。座布団の片付けを始める私の横を、父は風呂へ消え、兄と弟はテレビをつけ直し、母は仏壇の前で手を合わせていた。
「お疲れ様」
本当はその一言だけ、誰でもいいから言ってほしかった。耳の奥でずっと待っていたその言葉は、結局その夜、誰の口からも出てこなかった。
葬儀屋に名指しされた瞬間、家族の誰一人として代わろうとしなかったこと。買い出しも、確認作業も、当たり前のように私の役割になっていたこと。それでも誰も、その役割に対して言葉をかけてくれなかったこと。
「家族」という関係のなかで、私はどう数えられていたのだろう。流し場の蛇口をひねりながら、答えの出ないまま、私は喪服のボタンをひとつ外した。祖父の遺影に向かって、ようやく小さく「お疲れ様」と呟いたのは、自分自身に対してだった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














