「君がやらなかったせいだ」いつもの課長の怒声→持っていた証拠を静かに差し出した私が見た光景
「君がやらなかったせいだ」
「君がやらなかったせいだ」
課長の声は低く、はっきりしていた。オフィスの空気が止まった気がした。
取引先への提出書類にミスが発覚した朝のことだ。
課長はまっすぐ私のデスクへ来て、迷いなくそう言い放った。いつものパターン。繁忙期になると誰かのせいにする。それが以前の職場の課長だった。
普段は穏やかで話しやすい人だったが、忙しい時期になると別人のように変わる。
些細なミスでも人前で叱り飛ばし、周囲はいつも顔を伏せていた。私も何度か同じ目に遭っていたから、咄嗟に身構えた。
ただ、その日だけは少し違った。
たまたま、証拠があった
私は前日、承認を求めるメールをすでに送っていた。
書類の最終確認フローは課長の承認を経ることになっていて、返信が来ないまま翌朝に提出されていたのだ。
スマートフォンを机に置いた。送信済みのメールと、その時刻。
それだけだった。
「これは私が確認した後の話ではないですよね」
声が少し震えていたかもしれない。それでも言葉は出た。
課長は画面をじっと見た。
周囲の同僚も動きを止めて、こちらに目を向けていた。
普段なら誰も口を出せない課長が、珍しく黙って、メールの時刻を確認していた。
変わった、あの瞬間から
「…それは、私が確認すべきだった」
声量は落ちていた。短い時間だったが、その場にいた全員が見ていた。
課長はそのまま取引先への対応に移った。私は席に戻り、深呼吸した。
その場に立ち会っていた同僚が帰り際に「よく言えたね」と小さく声をかけてくれた。それだけで、じわっと力が抜けた。
翌日も、その次の日も、課長は以前より静かだった。
声を荒げる頻度が明らかに減った。完全に変わったわけではない。でも、あの朝を境に何かが少し動いた気がした。
数日後、同じ部署の先輩が「よく言えたね、あの人に」とだけ言った。その短い一言が、あのとき凍えそうだった自分の背中をじわっと温めた。うまく言えたかどうかは、今もよくわからない。でも声を出したことは確かだ。
メールの送信履歴を残していて良かった、とも思った。
証拠があったから言えたのか、言えたから証拠が生きたのか。どちらでもいい。あの朝に言葉を出した自分を、今でも誇らしく思っている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














