「缶ビールとあたりめくらいいいだろ」電車で飲み食いする男性。注意した年配女性が黙らなかった理由
がらんとした車両に漂ってきたにおい
ある日の昼、僕は休日出勤の帰りに電車に乗った。
昼どきの車内は空いていて、座席の真ん中あたりに腰を下ろし、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
しばらくすると、斜め向かいに座っていた男性がレジ袋から缶ビールを取り出した。
プルタブを開ける音に続いて、今度はあたりめの袋を破る音がした。
すぐに、焼いたイカのような強いにおいが車内に広がった。
近くにいた会社員らしい人が顔をしかめ、少し離れた席へ移っていった。
男性はビールを飲みながら、ときどきぶつぶつと独り言を口にしていた。
最初は気にしないようにしていたものの、においも気になってきた。僕は隣の車両へ移ろうと、リュックを肩にかけて立ち上がった。
そのとき、男性の隣に座っていた年配の女性が、遠慮がちに声をかけた。
「すみません。ちょっと、においが気になるんですけど…」
男性は女性を見て、少しむっとしたように答えた。
「缶ビールとあたりめくらいいいだろ」
年配の女性が静かに返した言葉
僕はリュックを肩にかけたまま、思わず足を止めた。
年配の女性は声を荒らげることなく、男性に言った。
「飲むなとは言っていませんよ。ただ、においは迷惑でしょう」
そして少し間を置いてから、
「おつまみだけでも、降りてからにしてもらえませんか」
と続けた。
男性は何も答えなかった。周囲の乗客も騒ぐことはなく、ただ何となくその様子を見ていた。
しばらくして男性は、あたりめの袋の口を折りたたみ、レジ袋の中へ戻した。
そして残っていたビールを飲み終えると、缶も一緒にしまった。
ぶつぶつと言っていた独り言も、いつの間にか聞こえなくなっていた。
僕はそのまま隣の車両へ行くのをやめ、リュックを下ろしてもう一度座った。
年配の女性がこちらを見て、少し笑った。
「騒がして、ごめんなさいね」
「いえ。僕も、ちょっと気になってたので」
そう答えながら、僕は少し気まずくなった。自分は席を移ることしか考えていなかったからだ。
家に帰って妻にこの出来事を話すと、妻も驚いていた。
「そんなふうに言い返されたら、私なら何も言えなくなるかも」
「僕もそう思った。でも、その人は怒らずに、においのことだけ話してたんだ」
強く責めたわけでも、大げさな言葉を使ったわけでもない。それでも、伝えるべきことを静かに伝えた女性の姿が、その日は妙に印象に残った。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














