「ツツジの枝が毎年折れるんです」よその塀に網戸を干すお隣さん。枝が折れるツツジを前に、僕は初めて声をかけた
庭師さんから頼まれた秋の一日
秋の初め、お隣の庭木の手入れに来た庭師さんが、うちの門の前で帽子を取りました。
お隣の松は立派なのですが、塀との間が狭く、はしごを置く場所がないのだそうです。
「すみません。お宅の庭から、はしごを掛けさせてもらってもいいでしょうか」
「大丈夫ですよ。花壇だけ避けてもらえれば」
僕がそう答えると、庭師さんは何度も頭を下げました。
お隣の奥さんは70代くらいで、その日は縁側から作業を見ていました。
朝、庭師さんと一緒に顔を合わせたとき、僕は奥さんにも会釈をしました。
夕方、作業が終わって庭師さんがはしごを片づけるときにも、奥さんの姿が見えたので、もう一度頭を下げました。
けれど、どちらのときも奥さんから返事はありませんでした。
夕飯の席で、大学生の息子が箸を止めました。
「お隣さん、何か言ってた?」
「いや。朝も夕方も、特に何も」
息子は少し考えてから言いました。
「そっか。今年も年末になったら、網戸をこっちに置くのかな」
毎年、よその塀に並ぶ網戸
お隣の奥さんは毎年の年末になると、外した網戸や玄関マットを、うちと向かいの家の塀に立てかけて干していました。
お隣にも塀があり、芝を敷いた広い庭があります。
それでも、なぜか網戸が並ぶのはよその家の塀でした。
僕が困っていたのは、塀そのものより、すぐそばに植えてあるツツジです。
網戸を立てかけられるたびに枝が折れ、正月前に切りそろえるのが毎年のようになっていました。
そして、その年の年末の朝。
塀のほうから、カタンと枠の当たる音がしました。
窓から外を見た息子が、僕を振り返ります。
「来たよ」
「うん。ちょっと行ってくる」
初めて伝えた、ひとつのお願い
サンダルを履いて庭へ出ると、奥さんが網戸をうちの塀へ立てかけようとしていました。
「おはようございます。ちょっといいですか」
「何かしら」
「うちの塀に干すのは、ご遠慮いただけますか。ツツジの枝が、毎年折れてしまうんです」
奥さんの手が止まりました。網戸を持ったまま塀を見て、それから僕のほうを見ます。
僕は続けました。
「庭師さんが作業するときは、これまでどおり庭を使ってもらって大丈夫です。それとは別に、網戸だけお願いできれば」
奥さんは何も言わず、網戸を持ち直しました。そして、そのまま自分の家の塀へ運んでいきました。
玄関マットも、あとから抱えて戻っていきます。
向かいの家の奥さんが、ほうきを持つ手を止めて、その様子を見ていました。
翌年の年末、お隣の網戸とマットは、お隣の塀に並んでいました。
うちのツツジの枝も折れていません。
門の前を掃いていた向かいの奥さんと目が合うと、小さく会釈をされました。
庭に出てきた息子が、空いている塀を見て笑います。
「今年は、うちの塀が空いてるね」
「そうだな」
こちらが協力できることと、困っていることは別です。もっと早く、同じように落ち着いて伝えてもよかったのかもしれないと思いました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














